「連休中に学校行くってのもなんか情けねえなあ…」
ぶつぶつ呟きながら門をくぐり、人気のない校舎へと足を向ける。
まばらにだが、部活動をやっている生徒の姿が視界に入り、宏海は少しだけ後悔した。
「しまった…部活があったか」
授業が無いから人影もそれほど無いだろうという考えが、初っ端から否定されたのだ。
下手にかち合うのは危険だ。コソコソと身を隠しつつ、適当に時間を潰せる教室がないかと
辺りを伺おうとした瞬間――頭に走った衝撃とともに、意識が途切れた。
「う……」
目を開けると、ぼんやりとした白い光が目に入った。
「――…彫刻…?」
見覚えのある風景は美術…準備室……か?
「おお、目が覚めたか。…ルリーダがお前の頭に手刀を当てた時は、少々ヒヤリとしたがな」
何かが紙の上を走る音とともに掛けられる声に、身を起こそうとしたが、強い力に押さえつけられ起き上がれない。
「これでも手加減はしたつもりだ。…だが生け捕りは不得手でな……痛かったか?」
耳に流れ込む物騒な言葉とともに、そっと頭を撫でる手。
首をひねり、手の主を見ればそこには、またも全裸の体育教師・ルリーダの姿があった。
白い肌に数多の傷跡がなんとも生々しいが、鍛え上げられた結果であろう引き締まった身体は、
見る相手に劣情の喚起を促す…って違う!
「な…なんで裸…!」
「男女絡みの裸体画を描く丁度いい機会だったものでな、と。よし、描きあがったぞ」
「描かなくていい! っつうか谷!何やってんだオマエ!」
「教師に向かってオマエとは何だ」
「だったらもっと教師らしい行動してくれよ!」
先ほど精を放ったばかりだというのに、再び熱を持ち始めてしまった股間を自覚して、冷や汗が頬を伝う。
対する美術教師・谷円は口元に艶然とした笑みを浮かべ立ち上がり、宏海の方へと近付いてくる。
「ふふ、身体は正直だな。嫌いじゃないぞ、オマエのそういうところ」
宏海たちの横たわるモデル台へと腰掛け、谷は己が身に着けていたブラウスのボタンを、
慣れた手つきで外していく。
ゆさり、と音立てんばかりに、自分の彼女のそれに負けるとも劣らないボリュームの双丘が宏海の目前に現れた。
「…オマエだって、こうされたかったんだろ?」
ついっ。
整えられた爪が光る指先が、ゆっくりと胸板をなぞる。
大胸筋から前鋸筋、外斜腹筋――筋肉の動きを指に覚えこませるように、丁寧になぞりあげる指の動きがくすぐったくも、
もどかしく感じていたが、欠片ほどに残された理性が、それを必死で否定しようとしていた。
「やはりいい体格してるな。肉付きも文句無い」
「や、やめ…」
「やめんさ。連休を使っての特別補習だと思って受け入れろ。――美術と、保健体育の、な」
囁くルリーダの手が、すでに屹立していた陰茎を軽く握ると、反射的に背筋がくうっと引きつった。
「海綿体には十分血液が送り込まれているらしいな。十代男子としては正常な反応か」
『戦乙女(ヴァルキリー)』の二つ名を持つ彼女らしく、その掌は少々硬さが感じられたが、
快楽を得る妨げとならないのは、ひとえに撫で上げる手つきによるものか。
「ほう、『戦場の死神』は戦事のみでなく、色事にも覚えがあったか」
「…意外か? だが女の戦は腕力だけでは成り立たなくてな。自分の持ち得るものは全て使うようにしてるんだ」
お前だってそうだろ? ――問い返すルリーダの言葉に、アルティメイドは微笑でもって答えた。
正義と平和に奉仕する究極のメイド――その存在意義に恥じる事のない程度に、谷にも経験があるらしい。
すでにボタンを外しきったブラウスを肌蹴させ、露になった胸が宏海の胸板に密着する。
「お、おい…」「あててるんだ」「先回り!?」
「随分張り詰めてきているようだからな、二人がかりでもって解き放つ手助けぐらいにはなるだろう?」
触れる胸の先端が、徐々に降りていき、敏感になっている先端に触れた。
「っ!」
まさか、まさか――焦る宏海の予想は的中した。
むにゅっという擬音が相応しい様で、谷は名前どおりの柔らかな谷間に、怒張しきったものを挟み込んだのだ。
「熱いな。これだけココに血が集まってると、末端の感覚が鈍るだろう」
「やめ、ろっ」
宏海の制止の声も届くことなく、しっかりいきり立った陰茎の先を、谷の唇が包み込む。
「!!」
ちりりっ、と脳を焼くような刺激に頭を支配され、固く目を閉じても、快楽が勝手に熱い吐息をこぼさせる。
「ずるいぞ。私にも……味わわせろ」
声とともに、押さえつけてたルリーダの拘束が緩む。
宏海には逃げ出すチャンスではあったのだが、出来るはずも無い。
「ん…んふっ……溢れてきた、な」
「本当…んむっ、胸が、ぬるぬるしてきた」
向かい合い、互いの胸を重ね合わせる形で陰茎を挟み、二人がかりでの舌による責めから逃げ出す手段など、
一介の男子高校生が持ち合わせるはずも無かったのだ。
4つの柔らかな隆起が肉茎を揉みしだき、2つのぬめる舌が、申し訳適度に覗く(包む胸の大きさから仕方ない事である)
亀頭をなぞり、鈴口を突付き――そして、絡み合う。
狭い美術準備室には、三人の淫らな吐息と粘ついた水音が響いていた。
「あ……! くっ、も、う…出るっ!」
ちりちりと背筋を走る刺激に任せるまま宏海は二人に向け、情欲の証を解き放った。
「んあっ!」
「はぷぁっ!」
どくん、どくん、どくん――鼓動と同調するように放たれた精液が、谷とルリーダの顔を、胸を白く染め上げる。
「くっ…あ…ああ…」
「あ……はあっ、随分濃いのが、出たな」
「ん、うん…美味しい……」
快楽の残滓の残る頭で宏海は、互いの舌を絡ませ、己の味を分け与えあう二人の姿を見た。
それは、教職者でも、自分より長い人生を歩んだであろう大人でもなく――。
二匹の欲にまみれた美しき獣だった。
*
「かはっ、……ぜえぜえ、よかった逃げ出せて…」
あんなのに最後まで付き合ってたら間違いなくミイラになっちまう。
服を小脇に抱え、下着姿の宏海は学校の門の手前で息を整えた。
――口と胸での責めに屈し、解き放ったものは二人の肌を染め、掛けっぱなしだった谷の眼鏡をも汚した。
その汚れを取ろうと、谷が無意識に眼鏡を外したのが宏海にとっての最大のチャンスだった。
「待…!」
「しまっ…!!」
気づいたルリーダが制止にかかったがもう遅い。
眼鏡を外すことで巨大化してしまった谷は、美術準備室はおろか校舎をも半壊させ――その隙を突いて、
宏海はほうほうの体で逃げ出したのだ。
全くの偶然だったが、今はその偶然に感謝せざるをえない。
「くそー…まだ頭がクラクラするぞ」
朝から立て続けに起こる情事の嵐に、正直体が付いていかない。
「これからどうするか…あの野郎に何とかさせるか、それとも身を隠すか…」
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