宏海×矢射子:2007/04/28(土) 12:44:44 ID:Sxq/eebX



初めてのデートの帰り道。
「やれやれ、結局いつものパターンだったな」
「赤い悪魔」の異名を持つ(元?)不良、阿久津宏海はため息をついた。
「本当ね…」
これもため息とともに答えたのは、隣を歩いていた百手矢射子。
最初は間界の王子太臓がらみで宏海のことも敵視していたが、
今では毎日食べたものまで報告しあう宏海の彼女だ。
矢射子は普通にしていればそこそこ、いやかなり魅力的な女の子だ。
何しろ、身長168cm、体重56kg、バスト92Gカップのナイスバディ、
美人で文武両道の元生徒会長なのだから。
ただ、何かと暴走してしまうのが玉にキズなのだが…。
それでも宏海は、矢射子が実は並外れて純情なあまり暴走してしまうのだということに、
最近気づき始めていた。
「太臓がいる限り、あたしたちには平和はないのかしら…」
「他の相手だったら、すぐに愛想をつかされてるだろうな。
お互い太臓のとばっちりをくう者同士だから、オレ達うまくいってるんだろうか…」
「…かもね」
ポニーテールの髪を払って、矢射子がクスッと笑った。
「だとしたら、あたし生まれて初めて太臓に感謝するわ」
これにはちょっとジーンときた。
宏海は、これまで矢射子がどれだけ太臓の変態ぶりに迷惑をかけられてきたか、
よく知っている。
太臓がドキ高に転校してきてからは言うに及ばず、昔太臓をホームステイ
させていた時には、太臓が原因で当時の彼女の人間関係はメチャメチャに
されてしまったのだった。それなのに、おかげで宏海とうまくいくのなら、
太臓にさえ感謝するとは…。
「それにね、皆の前で『オレたちつき合ってる』って言ってくれて、
うれしかった」
「矢射子…」


その時だった。
「やっと見つけたぞ、宏海!」
「おっ、親父!? どうしてこんな所に!」
「宏海のお父さん!?」
二人の前に立ちふさがったのは、息子を溺愛する宏海の父だった。
「昨日からどうも様子が変だと思ったから後をつけてきたんだが、
途中で見失ってしまったんだ…
やっと見つけたと思ったら、見知らぬ女とデートとは!
一体全体、佐渡さんとはどうしたんだ!」
「佐渡さん?」
動揺する矢射子の隣りで、宏海は声をはりあげた。
「もともと佐渡のことは伊舞の勘違いだって言ってるのに、連れて来いって
騒いだのは親父じゃねえか。
紹介するぜ、これがオレの本当の彼女の矢射子だ!」
「本当の彼女?」
「は、はじめまして! 百手矢射子です…」
真っ赤になって頭を下げる矢射子をじろりと眺めると、父は宏海に向き直った。
「いかん! たしかにこの女はいい体をしているが、それに血迷って乗りかえる
など、いかんぞ宏海ィ!
この売女アアア!! よくも宏海をたぶらかしおってエエエ!!」
「えっ? あっ、あのっ?!?」
宏海がとめる間もなく、逆上した父が矢射子につかみかかろうとし、
不意をつかれた矢射子ははずみで転倒してしまった。


「あ痛っ!」
「大丈夫か、矢射子!?」
駆け寄った宏海が助け起こすと、矢射子はけなげにほほえんだ。
「ん、大丈夫…つっ!」
左足首をおさえてうめく矢射子に、宏海はそっと怪我をした部分を調べた。
「ひねったな…。さいわい骨に異常はなさそうだが。…親父!!」
「はっ、はいっ!?」
底冷えのする宏海の声に、父は直立不動で返事をした。
「オレが体目当てに女を乗りかえるような男に見えるか?
そんなにオレのことが信じられないか?」
「いえ…そんなことないです…」
「だったらオレの言う事を信じろ。佐渡とはただの同級生だ。
この間は、オレが頼んで彼女のふりをしてもらっただけだ。
オレの本当の彼女は矢射子だ、わかったか!!」
「はいっ、わかりました!!」
「オレは怪我をした矢射子を家に送ってくからな。文句はないだろうな…?」
「…ありません…」
しゅんとした父をひとにらみし、宏海は矢射子に向き直った。
「歩けるか?」
「う、うん。あのっ、あたし、本当にたいしたことないのよ?
そんなにお父さんに怒らないで、ね、宏海?」
宏海は鼻を鳴らしただけだったが、幾分表情を和らげた。
「じゃ、家まで送ってくぞ、矢射子」
「あ、ありがと。お父さんすみません、失礼します…」
ペコリと頭を下げた矢射子が宏海に支えられて立ち去るのを見送る
宏海の父の背には、哀愁が漂っていた…。


「あらっ、矢射ちゃん?」
百手家に着くと、矢射子の母が二人を迎えた。
「早かったわね? 夕食はいらないって言ってたから、お父さんと待ち合わせして
出かけるところだったのよ」
「うん、それが…。たいしたことないんだけどちょっと足首をひねっちゃって、
とりあえず帰ってきたの」
「まあまあ、それは大変だったわね。あら?
あなたは以前、太っくんと一緒に矢射ちゃんのお見舞いに来てくれた…?」
「阿久津宏海です。すみません、オレがついていながら…」
「いやね、宏海さんの責任じゃないでしょ。
そう、あなたが矢射ちゃんの彼氏だったの、よろしくね。どうぞ上がって」
「あ、はい、お邪魔します」
宏海は少し顔を赤らめて頭を下げると、矢射子を助けながら家に上がった。
母は矢射子のひねった足首を調べると、手際よく手当てした。
「たいしたことなくて、良かったわ。
二人ともごめんなさい、お父さんを待たせているからもう出かけないと。
お茶の用意はしたから、矢射ちゃん、宏海さんにゆっくりしてもらってね。
夕食に出られないようなら、何かとってもいいし、冷蔵庫にもいろいろ入ってるから
適当に食べてね。
ふふ、矢射ちゃんたら、最近とても楽しそうだと思ったら、
宏海さんとおつき合いしてたからだったのね」
母の言葉に、二人とも赤面した。
「もうっ、お母さんたら、変なこと言わないでよ!」
「うふっ、それじゃ宏海さん、ゆっくりしていってね。
矢射ちゃん、よかったらこれ使って」
何か入った紙袋を矢射子に渡すと、母は出かけていった。


玄関先で矢射子の母を見送った二人は、リビングに戻った。
「優しいオフクロさんだな。それに、親父さんと仲がいいんだな」
「うん、…ちょっと変わった趣味を持ってるんだけど。でも、いい両親よ」
「そうか…」
彼が離婚した両親のことを考えていることを察した矢射子が、気遣わしげな顔を
しているのに気づき、宏海は話題を変えた。
「ところでオフクロさん、何をくれたんだ?」
「あ、何かしら、えっと…」
紙袋をのぞいた矢射子は、そのまま固まってしまった。
「…お母さんったら…」
「どうした? 意外なものだったのか?」
「い、意外というか、その…たいしたものじゃないの、うん…」
矢射子は動揺を隠そうとしたが、例によって失敗し、袋の中身を床に
ぶちまけてしまった。
「…これは」
袋から飛び出したものは、…SMセットと避妊具の小箱。
不本意ながら周囲からはつっこみエースと目されている宏海だが、今回ばかりは
リアクションに窮した。一歩間違えれば矢射子を深く傷つけるのは目に見えている。
「…えーと…」
束の間の沈黙を破ったのは、かつてないほど真っ赤になった矢射子だった。
「違うの宏海、あたし、そんな趣味ないからっ!! これは両親の…
と、とにかくあたし宏海の体目当てなんかじゃないからっ…!!」
宏海は苦笑いすると、妹にするように矢射子の額をつついた。
「バカだな、そんなこたあわかってるよ。そもそも、体目当てってのは普通男の方だぜ?
矢射子は狙われる側だろ」
矢射子はほっとした顔をすると、安心した勢いかすごい力でしがみついてきた。
「ありがと、宏海…」


豊かな弾力を押し付けられ、宏海はうろたえた。
全身を勢い良く血が巡り、頬がカッと熱くなるのが自分でもわかる。
「悪ィ…、放してくれねえか」
「えっ? あっ、キャーキャー言って抱きついたりしてくる女は嫌だって、
前に言ってたっけ?」
「いや…矢射子になら抱きつかれても構わねえけど…
その、そんな風に抱きつかれると、オレの方が体目当てになっちまいそうで、さ…」
宏海は上気した顔を見られないようにそむけながら、やっとのことでそう言った。
だが次の瞬間、しがみついてくる矢射子の腕にふたたび力がこもった。
「やっ、矢射子!?」
「宏海ならいいの…宏海は優しくて、あたしが困った時に何度も助けてくれて、
それで好きになったんだから…。
宏海なら、体目当てなんてことないって信じてるもの…」
「矢射子…」
不良として恐れられていた宏海は、こんなことを自分が言われるとは考えたことも
なかった。
宏海も両手を矢射子の背中にまわし、抱きしめた。こうして密着していると、
相手の鼓動が伝わってくる。子供の時以来、他人とこんなに密着したことはない。
「宏海、大好き…」
「オレもだ、矢射子…」
左手は矢射子の背にまわしたまま、右手で矢射子のあごを持ち上げ、唇を重ねる。
やわらかい感触を味わいながら矢射子を見ると、目を閉じて宏海に体を預けている。


「本当にいいのか、矢射子」
宏海はささやいた。
「うん…」
「よし」
宏海は、床に落ちていた小箱を拾い上げた。
「せっかくだから、SMセットはともかく、こちらは使わせてもらうか。
ここでいいか、それともお前の部屋へ行くか?」
矢射子はびくりと身を震わせ、ようやく聞き取れるほどの小さな声で答えた。
「あたしの部屋へ…」
「わかった」
そう言うと宏海は矢射子を抱き上げた。
「きゃっ! 宏海、あたし重いし、自分で歩くから…!」
「けが人はおとなしくしてろ。それに、お前の重さなんてなんでもねえ」
宏海は軽々と矢射子を自分の部屋へ運んだ。
実はサンタクロースの手伝いをした時とか、見舞いに来た時とか、この部屋に
来たことは何度かあるが、つき合うようになってからはこれが初めてだ。
ベッドに矢射子をおろし、隣りに腰掛けてふたたび唇を重ねる。
片手で矢射子の髪を優しくなでながら、もう片方の手は不器用に服にかける。
あらわになった白い肌は、薄紅色に上気している。
大きな手で豊かな胸を包み込むようにすると、矢射子は目を閉じたまま
そっとため息をもらす。
(女って、本当にやわらけえな…)
己の手をひどく武骨なものに感じ、気後れしながら宏海は矢射子の服を
脱がせにかかった。
かすかな湿布のにおいが鼻をつく。白い包帯に包まれた足首が痛々しい。
「足…大丈夫か?」
「うん、しっかり手当てしてもらったから平気…気にしないで…」


宏海は自分の服を手早く脱ぎ捨て、矢射子の足首に気をつかいながら
そっと覆いかぶさる体勢になった。
唇、首筋、胸元と、思いつくままにキスをする。矢射子はぎゅっと目を閉じたまま、
宏海のなすがままに身を任せている。濡れた部分を探りあてると、矢射子の体は
びくっとする。
「あ、宏海…」
「力抜いてろよ。無理なことはするつもりねえから…」
「うん…」
そっと愛撫を続けると、次第に矢射子の緊張がほぐれ、かすかな声をあげはじめた。
「矢射子…いいか…?」
おずおずした声に、矢射子は目を開いて宏海を見るとうなずいた。
ゴムを着けたものを入り口にあてがい、宏海はわずかに腰を進めた。
きつい。矢射子が押し殺した声をあげる。そっと動いて様子を見るが、
相当痛みを感じているようだ。
(これは時間をかける方が苦しそうだな…)
「いくぞ、矢射子」
そう告げると一気に力をこめる。矢射子が大きくうめいた。
奥に届いたところで動きを止める。
「…つらいか?」
矢射子は涙目になりながら宏海を見上げた。
「ん…痛いけど、大丈夫…」
「動いていいか?」
「…うん」
宏海はそっと体を揺らすように動いた。やがてだんだんと動きが大きくなる。
はじめはひたすら歯をくいしばっているようだった矢射子の口からも、
次第に甘い声がもれはじめる。
長い髪が汗ばんで上気した顔に乱れかかっている。
初めて見るなまめかしい表情に、宏海はますます昂ぶりを覚える。
矢射子の中はあたたかくなめらかで、彼をしめつけてくる。
あまりの心地よさに、あっという間に登りつめそうになってしまう。
「矢射子、悪い、オレもう…」
「いいわ、宏海…」
優しい声が答えたのと同時に、宏海は己を解放した。


息を切らせながら、宏海は矢射子にキスをした。
「ごめんな、矢射子…」
「えっ? 何が?」
「いや、オレ余裕がなくて、自分ばっかり気持ちよくなっちまって…」
「そっ、そんなこと気にしないで。あたし、夢中だったからよく覚えてないんだけど、
宏海がとっても優しくしてくれたから怖くなかったし、いますごく幸せ…」
恥じらいながらささやく矢射子をいとしく思いながら、宏海は彼女の
乱れた髪をなでた。
体を起こしてゴムの始末をした宏海は、ベッドわきのあるものに気がついた。
「あれ? 鬼の人形? …これって、前に矢射子、こわしてなかったか?」
「あっ、そ、それは…」
それは宏海が矢射子の見舞いに来た時に見つけた、自分によく似た赤鬼の人形だった。
もともとぼろぼろだったものを、あの時矢射子がさらに痛めつけて完膚なきまでに
破壊していたと思ったが、すっかりきれいに直してある。
「それ、実は宏海のつもりであたしが寝る前に話しかけたりしてたの…。
毎晩一緒に寝てたから、ぼろぼろになってたんだけど…。宏海に見つけられて
恥ずかしくて、つい乱暴しちゃったけど、その後すぐに直したの」
「ふーん、こいつが話せれば、矢射子が毎晩どんなことを話してたか、
聞けるわけだな…」
「やっ、やだ、そんな!」
「まあいいや。当分こいつにオレのかわりに矢射子の相手をしててくれるように
頼んどくかな、その必要がなくなるまで…」
「えっ、それどういう意味…?」
「そのうち、オレが毎晩矢射子の話を聞いてやるからさ」
数秒かかってその言葉の意味を理解すると、矢射子は全身真っ赤になって
枕で顔を隠してしまった。
口もきけずにいる矢射子のかたわらで、宏海は鬼の人形をつついた。
「それまで矢射子を頼むぜ、赤鬼君よ」


<了>



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