リッキングウルフ:2007/04/28(土) 03:40:03 ID:AJGd6zxW



――どうかしている。

仁露はメガネのブリッジを軽く押し上げた。
今日会ったあの女性の事が頭から離れない。

「怖い?大人になってもひとりじゃなんにもできない方が、もっとこわいよ!」

自分のみっともない姿を目の当たりにし、
更に襲われそうになったというのに、
彼女は「変身出来るなんてすごい」と感心して
怖くないのかという質問には笑ってその言葉を返した。

後からそれはマンガの中のセリフだということを教えてもらったが、
たとえ、彼女自身の言葉でなくても
そうとう読み込んで血肉になっていなければ、
とっさにその言葉が出てくるはずもない。
彼女は、本当にぼくが怖くなかったのだ。

救われた。そう感じた。

なのに、そんな素晴らしい彼女を――妄想の中で犯している。


あの時は間界領事に凍らされたが、もし、邪魔が入らなければ――

彼女に当て身でも食らわせて抱えあげ、
ドラクロワや間界の王子様とその従者2人から逃げて
体育館倉庫あたりに連れ去る。

扉が開かないように細工をし、
服を引き裂いて逃げられないようにする。
彼女は悲鳴を上げるだろう。
「あれ?『驚かして……すまない』は?」

無視してそのまま引き裂いた服で手足を縛りつけ、
全身を舐めて文字通り味わうことに専念する。
最初はくすぐったがったり嫌がったり、
そのうち泣き出すだろう。その涙も舐めとろう。


実界に来てから押さえ込んでいた、溜まりに溜まった欲は、
例のフェロモンですっかり開放されてしまっている。
影響を受けるほど吸い込んだつもりは無かったが、
どうもあのフェロモンにはムラがあったようだ。

ほんのわずか、頭の片隅に残っている理性でそう考えるが、
体は彼女の味を存分に楽しみ続ける。柔らかくきめ細かな肌に前肢を這わせ
弾力を楽しむ。狼の姿は不便だ、たまに肌にキズをつけてしまうかもしれない。
血も舐めとろう、いくら食事とは言え、彼女の血はドラクロワには一滴たりとも渡さない。

そうして舌が触れていないところなど無くなる頃には、
――彼女から笑顔は消えているだろう。
全裸の肌をぼくの唾液でてらてらと光らせ、
引きつった表情でこちらを見るに違いない。

「でも、しょうがないでしょう? 最初に舐めてきたのは貴女だ」



わざとていねいにそう言って、ゆがんだ顔をもう一舐めしてから、
こちらも服を脱いで「食べる」準備をする。――処女、だろうか?
多分そうだろう。確信は無いが。

こちらが服を脱ぐ隙に逃げようとする彼女の腰を捕らえ、
背後から抱え込み、床に――マットか何かあれば、そこに押さえこむ。
奇妙な形に結われた金髪が目の前を跳ねる。

「いや……たすけて、じょうたろうさんっ」

想い人に助けを求める彼女の言葉に、
こころに鈍い痛みと嗜虐を覚えながら、
いきりたった己を彼女の中に根元まで埋ずめる。キツい。
一度引き抜き、また奥まで。血と、体液と唾液と、
彼女の悲鳴と、
体の芯から焼けるような快感――
焼けるような――
焼ける――


「あっ……つぅっっ!?」
仁露が「本当に」熱さを感じて我に返ると、足元が、比喩抜きに燃えていた。

そうだ、ここは自室だ。
彼女から一日つけたままでいろと言われたライターを前にして妄想にふけるうち、
ライターが倒れて落ちたことに気付かず、服に火が付いていたのだ。
慌ててライターを立てて遠ざけ(幸い消えなかった)、
服に移りかけていた火を踏み消す。

「罰が当たった、んでしょうか……」
「おい、なんか焦げくせえぞ?」
一息ついたところで、ドラクロワが異変を察知したのか、
部屋の外から問いかけてきた。

「大丈夫ですよ」
努めて平静を装って返答する。

「ならいいけどよ。あのライター消しとけよ、危ねえから」
「消しません」
「……忠告は、したぜ」
呆れたようなため息と共に、去っていく気配がした。

先ほど避けておいたライターに目をやる。
「すみませんでした。温子……と」
実界では名前呼びは目立つ。彼女を、どう呼ぶべきなのだろうか?

しばらく考え、正解を思いついて、
仁露は苦笑と共にライターに向かって謝罪した。

「すみませんでした、部長」


<了>



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