第55章の偽太臓あたり:2007/03/21(水) 00:20:56 ID:istFVuZx



「た、太臓がスカート破れた女子見て何も騒がないなんて……!」
安骸寺を従え、にこやかに去っていく太臓を見て、須美と雪乃は呆然とその場に立ち尽くしていた。


「……ありえないんですけど」
「なんか調子狂うんですけど」

数日後、返し損ねたクリップを手で弄びながら、二人は窓際の人だかりを眺めていた。
人だかりの内訳は、中心から三角い頭の少年、それをきゃあきゃあと構う女子数人、
それを奇異な目で見る阿久津と佐渡、の後ろで白くなった安骸寺、の後ろで切なげな視線を送る笛路、をとりまく女子更に数人。

人の慣れとは恐ろしいもので、当時は天変地異の前触れかと思われた
ジェントルマン仕様の太臓も、既になんとなく定着しつつある。
前とは違った意味で、女の子の為にちょこまかと動き回るマメさがそれなりに受け入れられたらしい。

今までとは逆の近寄り難い状況に、妙なものだと頬杖をつきながら須美は言う。
「まあ、実際クリップ止めた所で不自然だったし、実際に助かったかどうかはおいといてさー」

「多分、あれイケメンにやられたらときめくよね」
「……多分ね。私大木君にクリップ渡されたら、例え重くてもずっと付けてる」
純粋に男に優しくされて、悪い気はしない。例えあの太臓と言えど。
身構えていた分、彼の他意の無い親切さは色んな意味で衝撃だった。

「でもあたし、あんなキモおにぎり興味ないんですけど」
「分かってる、須美は木嶋先輩のファンでしょ」
「……木嶋先輩と太臓ってなんか最近仲良さそうだよね」
「あー…良く一緒に騒いでるのは見かけるよね。……で?」

「う、ううん、結構あれであいつの人間関係人気者っていうか有名人ばっかりっていうか」
「ああ、ちょっとうらやましいかも………で?」
「……」
「……あの……須美?」

「……いや、別に、ほんとに関係ないんですけど」
「なんでさっきからあいつの話ばっかりするの?」
「だ…だからちょっと、びっくりしただけなんですけど!別に」
「え、ちょっと待って待って!や、やめときなさい!
 いくら今脈無さげだからって、フェミニストっぽい人好きだからって
 ちょっと優しくされた位でアンタいくらなんでも流されやすすぎ………!」

「ぎゃー違う違う違う!ちょっとマスコットみたいで可愛く見えなくもないかなって!そんだけ!」
「いやいやもうそれ既にちょっとヤバいんですけど!確かに最近……ちょっと、思ったけど!!」
「なに雪乃、アンタだって思ってたんじゃない!」
「思ったけどっ!思ったけど……………………でもさ」
「何よ」



「何か、らしくないよね。朝来てあいつに怒鳴ってやんないと物足りないんですけど」
「………それは、言えてる」

相変わらず騒がしい教室の中で、二人は奇妙な感情を持て余していた―――――もうむりぽ

<了>



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