あいす×宏海:2007/03/01(木) 21:54:38 ID:ZRJl1DWO




「宏海」
「な、なんだよ」
 木枯らしの寒々とした歩道。太蔵のせいで、いつの間にか一緒に帰るようになったものの、あいすはその名のとおり冷めた視線を、宏海に投げつける。
少なくとも、宏海はそう思っていた。
「私」
 そう、そのときまでは。
「私、最近欲求不満なのよね」
「はあ――!?」
 突然の言葉だった。白い息とともにもらされた、およそ女性の口から――その上、こともあろうに彼女の口から、そんな言葉を、宏海はこれまで聞いたことがなかった。
 一度、目を閉じ深呼吸。
「――悠、悪いこと言わんから、そいつだけはやめておけ。おまえ寒いのとか苦手なんだろ?あいすを敵に回すような幻術――」
「宏海」
 あいすのとげのある口調。不機嫌の美顔。およそ笑みなんて一ミリもない。
こっちは現実的だった。悠のつくる幻ではない――?
「冬になると、あらゆる感覚が暴走するのよ。ねえ、私の家に来て。
仕事とはいえいつも太蔵を黙らせてあげてるんだから、少しぐらい私にも付き合いなさい」
 くるりと前を向いて進んでいくあいす。対象的に、宏海は立ちどまる。
「いや、待て」
 やはりおかしいぞ!?悠の幻術ではなさそうにしろ、この性格のあいすが……?
宏海は思った。
いや、間界って、そんなものなのか?能力が制限できないって、そういうことなのか?
 だんまりを決め込む宏海を背に感じたあいすは、すっと振り返った。
「やっぱり、どこかのバカ生徒会長の方がいいのかしらね」
「は、はあ!?」
 ――!?
 その瞬間だった。香る女の匂いと、舞う雪色の髪。
 公衆の面前で、とかそんなこと考えるいとまもない。
宏海は顔を赤くしないこと、ただそれだけに集中させられた。男の弱み。
「おいっ!!!!!」
「何よ。会長の胸じゃないけど、触らせてあげるから」
 左手で宏海はあいすの胸をわしづかまされていた。
そうしてあいすは腰に両手をあて、胸を張る。宏海は口をぱくつかせた。申し訳程度にある胸。でも、柔らかくてなまめかしい。少しこりっとしているこの部分は、う、うわ……。
「物足りない?」
「い、いえめっそうもない……」
 何言ってんだオレは……宏海は自分にツッコミを入れる。
「私を癒すために、家に来て。そのかわり、あなたには服を一切脱がせない。
一方的にあなたが私に尽くすだけ。いい?わかったわね」
「お、おいおいおい!!!」
 宏海は首を振って言った。
「ば、バカか!」
「拒否するつもり?」
「は、当然……」
 あいすは勝ちを確信したように宏海を見やる。
「手」
「あ!っ!?う、これは……」
 あいすの手が放されても、宏海はずっとあいすの胸を握っていたらしい。
 急いで手を引き剥がすも、やり場のないバツの悪さ。思わず顔を伏せてしまう。
「あなたも男ね。さ、来て。そのかわり私の言いなりよ。あなたはしろって言われたことだけをして。たぶん、我慢はいっぱいさせるから。あくまでも、楽しむのは私」
 どうして、宏海は拒否しようと思えばできたはずだ。それなのに、言われるがままに、家へと連れていかれた。

 それからのこと。
 宏海はあいすにさんざん使われ、あいすの良いように汚された挙げ句、
たくさんの写真を撮られ、弱みを盾にまた使われることとなる。しかし宏海は何一つ文句は言わなかった。なぜか。

「宏海、今日もよ」
「あ、ああ……わかった」
 かしづくように、後ろに従える宏海のその姿。 

 それは、新たな境地の表れのようだった。




<<作品倉庫に戻る

inserted by FC2 system