乾×矢射子:2007/02/27(火) 00:43:27 ID:igrcM6rv




「だっ!……だから」
「用がないなら、行ってるぞ?」
 最近来ることが多くなった屋上も、阿久津を呼び出した時ばかりはパーティ会場に変わる。
矢射子はそう思って、めかして来たのに――
(うっ……うう……)
 生徒会室に戻った矢射子は、下唇を噛んだ。どうしていつもこうなのかしら。窓からは、暮れかけた日。
矢射子は自分を責めずには――乾をセメずにはいられなかった。バシバシッ!!容赦なく――
「はひん!気持ちいいですけど、どうかしたんですか??」
 四つんばいで「伏せ」をする乾からの言葉に、矢射子の鞭が、止まる。
もう一薙ぎして乾のあえぎ声を聞いてから「はうッッ」、矢射子はため息を漏らした。ばれているのね。
「なんでもないわよ」
 阿久津、宏海。
 矢射子は目を閉じ、考えた。何度、この名前を頭に反芻させていることだろう。
今日は、告白しようと思ったのだった。あの鈍感な彼――もちろん、それを含めて好きだが――に、気にかけてもらえる、最高の、そして矢射子にとって唯一に感じざるを得ない、この方法。
 それなのに。
「私……それすらも、だめなのね」
 矢射子の挙動に、思わず乾は立ち上がった。
「本当に、何があったんです?」
 矢射子と異性である乾一が上半身裸とかそういうことは、お互いもはや気にはしていない。
「今の私は……あんたには癒せないわよ……」
 乾はじっと、矢射子の顔を見つめた。
 女の涙が、あった。
「……」
 乾は瞳を伏せた。矢射子はひっく、ひっくとのどをならし始めた。
 乾はそしてその間に、制服をきちんと着た。
乾は、矢射子の前で、しかも生徒会室で正装するのはなんだか久しぶりだと思った。
机の椅子を引き、矢射子に座らせ、自分も隣に座った。椅子に着席すると同時に、矢射子は机につっ伏した。乾はただ、横に座っていた。
「この僕――犬では、癒せないのなら、今日は、お友達で」
 矢射子のすすり泣く声が、生徒会室にこだまする。赤い夕日。
乾は少しも動きはしなかった。矢射子の横で、まるで、一人になさてはいけない、とでも決意したかのように。
(僕は、そんな会長のそばにいることしかできませんが……)
 いつも見ている、愛しい女性の、
 いつもは見せない愛しい姿を。
(会長のそばにいることだけは、できるので)
 
二人の生徒会室は、ゆっくりと、時間が温めていった。


((了))



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