宏海×矢射子+α:2006/12/28(木) 10:53:05 ID:svCz3f/b




悠様はいつも変態王子に付きっきり。究極の面白なんて求めないで私を求めてくれればいいのに。
悠様が王子の補習に付き添って、休みのはずの学校にいる。赤毛君も連れてきてるみたいだし、変なことしないか見張ってなくちゃ!
赤毛君はさすがに休みの日まで勉強をする気はないらしく、悠様のいる教室を離れて体育館裏の木陰で横になって居眠りでもしようかとしている。
もちろん私は愛しの悠様を見て、隙があれば襲う気満々だったけど、その悠様がこれほど興味を持つ実界人の赤毛君を今日は観察することにした。
赤毛君でを知ることは悠様を知ること!悠様に近づくためなんだから!
赤毛君はとくに変わった様子もなくぼんやりと空を見つめたまま動かない。眠いというよりは退屈をしてる顔だった。
「ん〜、ただ見てるだけっていうのもアレよね。何考えてるのかしら」
元々尾行で距離があり、あまりよく見えないターゲットの顔。思考なんか読みとれない。
「赤毛君の本音でも聞こうかしら。ガンシーンリキン!」
「プライバシーも何もないタマ」
黙ってなさいと精子を押し込み、赤毛君へ魔法をかける。赤毛君は気づいていないようで相変わらずぼーっとしていた。
「さぁー、悠様が興味を持つ実界人の内情事情が明らかに!!」
耳を澄ますと聞こえる、少し鈍い赤毛君の声。ああん、部活中の野球部がうるさいわ。
(かったりー…何で休みの日まで学校なんざ…)
「キタわキタわ、本当に男専門なのかしら」
「翠タマは少し常識を身につけた方がいいタマ」
赤毛君は殆ど何も考えていないようで、入ってくる声から得られた情報はゲームのことや昔の思い出ばかりだった。
「悠様にあれだけ好かれておきながら自分は考えもしないのね。どれだけ愛されてる自信があるのかしら」
「全く興味がないっていう考え方もあるタマ」
「そうかしら…ん、あれは?」
私と反対側の校舎の影からチラチラとこちらを見る人影を見つけた。いや、赤毛君を見る、の間違いね。


「いつぞやの討魔師じゃない。そういえば、悠様、あの子にも興味あるような素振りしてたわね」
忘れもしない去年の暮れ。間界人のパーティのときに悠様が『かわいいと思うか』と聞いていた人物だ。その後すぐに制裁はしたけども女っていうのは怖いからね。
「問答無用!!ガンシーンリキン!!」
心が読める相手には承太郎だって手こずるんだから。赤毛君と同じ魔法を討魔師の巨乳女にかけると、すぐにうるさいぐらいの独り言が入ってきた。
(ああああ阿久津ー!!?学校は休みなのに何でいるのよ!!ラ、ラッキーなのかしら? あーん、声かけるべき??かけるべき??)
なんか私に問われてるみたいですごく困るわ、この子。そういえば赤毛君に恋してるんだっけ。じゃあ安心かしら。
「いや、むしろこの子と赤毛君をくっつければ、赤毛君は悠様から離れるんじゃ...!」
「前にその作戦が失敗したのを忘れたタマ?」
「ちゃんと作戦があるのよ!!ムクムクって思いついたわ」
うるさい討魔師と片や静かな赤毛君の内心を聞きながら、校舎を大きくまわって反対側へ移動する。近づく前にわざと草むらで音を立てて討魔師に存在を知らせた。驚かせて声だされたら終わりだからね。
「魔女!」
「そう構えないでよ。がさつな女は嫌われるわよ、特に赤毛の男には」
「なっ…!!」
(赤毛って…阿久津のこと!!?)
勇ましい討魔師が折れるのも時間の問題ね。恋心ってものは何よりも強いんだから。
「ちょっとお話しない?」


「あ、阿久津がそんなこと!!?」
「ええ。普通にしてれば好いてもらえるんじゃない?まあ討魔師に普通なんて無理かしらね」
「翠タマも普通を語れないタマ」
場所を教室に移して、赤毛君に聞こえないように会話を始めた。始めてすぐ私の頭の中は劣等感でいっぱいになった。悔しいけどこの子の方が胸が大きいみたい…いやらしい子!
「翠タマ!」
精子の声で我に返る。いやだ、討魔師に変な目で見られてる…なんか腹立たしいわ。
「…いい!?ここまで教えてあげたんだからあなたには絶対赤毛くんとくっついてもらわなきゃ困るのよ!!」
「くっつ…!!」
こんな言葉ぐらいで赤くなるなんてやりにくいわ!!伊舞よりも純情なんじゃないの?
精子がやたら温かい視線を彼女に送っているのを横目に、私は本人に気づかれないように彼女に魔法をかけた。
「ムービレイト」
熱くなってもすぐに暴走しない魔法を。

私が勧めるままに体育館裏に戻ると、赤毛君はまだその場所にいた。討魔師の体温が上がるのが空気でわかる。
(ああ、寝顔が…)
あんなゴツい男の寝顔なんかより、悠様の寝顔の方がよっぽどオカズになるわ。
「ほら、あくまで普通によ。ふ・つ・う」
どんっと彼女の背をステッキで押した。今日私と会った記憶を無くすためにね。私に見られてるってわかってたら、見られちゃいけないあんなことやこんなことに踏み切れないでしょうからね。
「私ってば親切よね」
「完璧な出歯亀になっただけタマ」
まぁ精子はおいといて。

「あ、阿久津…」
返事を期待せずに名前を呼んだのが声でわかった。その期待はあっさり裏切られたけれど。
あんな強気な女があそこまで自信なさげに振る舞うなんて。そんなに赤毛君って魅力的かしら?
「ん…矢射子か?」
赤毛君はすぐに上体を起こして巨乳女の顔を確認すると、さらに体を立たせてこちらへ近づいてきた。いや、彼女の方へ、ね。
「休みの日にどうしたんだ?」
「あ、あたしは入試結果を報告しに…」
(ああああ阿久津の匂いが…こんな、近くにっ!!!ああ、アドレナリンが…!!)
「ああ、どうだったんだ?」
少し不安気な表情を浮かべる赤毛君に対して、討魔師は大分ひきつった笑顔を返した。
「第1志望は…ね。第2で受かったわ」顔を曇らせるのも当然だったみたいね。悠様の近くにもちらほら見受けられるほど勉強から離れてたこともあるみたいだし、正直受かるなんて誰も思ってなかったんじゃないかしら。


それでも赤毛君は素直に笑顔を返した。
「そっか!よかったじゃねえか!!」
(どきんっ)
「う、うん…」
赤毛君の笑顔を見た瞬間の討魔師のトキメキが魔法を通して私にも伝わった。いや、伝わっている。
赤毛君からは本当によかったと言う気持ちが伝わった。なんかこれ、いい雰囲気なんじゃないの?
「なんか悔しいわ。ぶち壊してやろうかしら」
「最初の作戦はどこいったタマ!!」
「ちっ…わ、わかってるわよ!!これも悠様を手に入れるためよね」
精子になだめられ、赤毛と討魔師の間に割って入りたくなるのを堪えつつ、二人の背中を見守った。
「あ、あのもし暇なら生徒会室に来ない? お、お茶ぐらいあるから…」
真っ赤になりながら赤毛君を誘う姿は確かに可愛らしいと思う。実界人の女の武器は恥じらいってところかしら。
「恥じらいぐらい私にだって…」
「それは翠タマから最も遠い言葉タマ」
はい、精子はおいといて。
赤毛君は何も顔色を変えず、少し空を見てから返事をした。
「邪魔じゃねえなら誘われるかな。まだ外で寝るには寒ぃからよ」
(熱い茶でも飲みながら矢射子と話してたら退屈はしなさそうだな。悠たちに付き合うよりよっぽどマシだ)
討魔師はさらに顔を赤くして、無言で校舎へと足を進めた。赤毛君はちょっと驚いて、それでも素直にその後ろについていった。
「なんで何も話さないタマ?」
「赤毛君が『寝る』なんて言うから意識してるみたいよ。そっちしか頭にないのかしら」
「翠タマが言えたセリフじゃないタマ」
「そんなことよりあの赤毛!!悠様よりあの子の方がいいって言うの!!? 許せないわ…」
「作戦としてはいいことタマ」
二人を先回りして生徒会室の隣の部屋の壁ににマジックミラーのような魔法をかけた。こちらからは見えるけどあちらからは見えないってやつ。まぁ、私の魔法なんだから、向こう側は壁のままなんだけどね。
悠様のため…その思いだけがこの苛立ちを抑えられるの。そうじゃなかったら何好き好んで人の恋路の応援なんて…!
「翠タマ、恐ろしい顔になってるタマよ」

「す、座ってて」
「ああ、悪ィな」
声も姿も心の中まで丸見えな二人が生徒会室に入ってきた。赤毛君は討魔師のことよりも他のことに気を取られていた。
(生徒会室…ちゃんと入ったのは初めてだな。あんときは太臓がバカやっててそれどころじゃなかったし)
その後に彼が思い出した内容はあまりにも彼女が不幸すぎたからあわてて魔法で忘れさせた。何も二人きりのときにウンコまみれを思い出さなくてもいいじゃない!!
「まったく!なんていう思考回路してるのかしら」
「誰のせいでそうなったか忘れたタマ?」
ああ、そういえば私もウンコまみれにされたんだわ…おまけに悠様にそんな趣味はなかったみたいだし、踏んだり蹴ったりだったわね。
「頑張れ翠、頑張れ翠……私は限界だー…」
「あっ!翠たま!!」
精子の声でぼんやりとした意識を二人へ戻す。なんか目を離した隙にいい感じになってるじゃない!!

「悪い!大丈夫か!!?」
「あ、こここれぐらい平気よ!」
寄り添って手を握りあってる様に見えるのは気のせいじゃないわよね。ああん、肝心なところ撮り損ねたわ!! エキセントリックになってる場合じゃないわね。
「何があったの?」
「赤毛がお茶をこぼしたんだタマ。それが討魔師の手にかかって火傷したみたいタマね」
「ロクなことしないわね、赤毛の奴」
「翠たまに言われたら終わりタマ」
慌てて赤毛君が手をとって、巨乳女の指を水に浸す。真っ赤になってるじゃない、普段平気じゃないわよ。
「あ、阿久津…大丈夫だからっ」
好きな男に手をとられて、必死に手を離そうと討魔師がもがく。
「好きな男に触られたんだからそのまま色んなところ触らせちゃえばいいのに」
「翠たまの考えは特殊タマ」
それでも赤毛君は手を離す気配はなく、黙って彼女の指を見ていた。自分の手も冷たくなるのを気にもせずに。
「…ちょっとかっこいいタマね」
「そうかしら?あんなの他の男にもできるわよ」
水の流れる音だけが部屋に響いている。各々心の中は騒がしくなってるみたいだけどね。
(何やってんだオレは!? 女に傷負わせちまって…)
(ああああ阿久津、阿久津と、手、手!!)
…あの討魔師には同情はいらないみたいね。そんなに肉体的接触を求めてるなら後押ししてあげようかしら。
「ねえ、精子。赤毛君に薬でも盛ってあの子襲わせてもいいかしら」
「そんなことだめタマ!!後押しどころか犯罪タマよ!!」
私の中のダァクな部分がふつふつとわき出てくるのがわかる。告白なんて生温い!既成事実を作っちゃえばいいのよね。
精子の制止も聞かずにステッキを振りかざそうとした時だった。

「それは困る」
突然背後からした声に、驚きよりも喜びを感じた。だってこの声は…
「悠様!!」
悠様が私に会いに来てくれた!やん、それどころか心の中まで見透かされちゃってるっ。もうっ、悠様ったら!!
「全部口にでてるタマ」
「邪魔しないで、精子!!」
私を真っ直ぐに見る悠様の鋭い目…ああん、視姦されたい!
「悠様がやめろって言うなら私は何もしません。あ、これ悠様が喜ぶと思ってちゃんと録画してますから!」
ずっとステッキのカメラから録画していた画像の一部を壁に映すと、悠様は口だけで笑みを作った。やだ!!悠様の笑顔…
「さすがよくわかっているな。だがオレが求めているのは宏海自身の意志で行動することだ。余計な手は出すな」
悠様の体が私に近づいて…
「えっ…」
唇に触れるだけのキス。一瞬だったけど、確かに悠様が私に…
自分でわかるぐらい血液が顔に集まってる。何よ、こんなの私じゃないわ…こんな、キス、ぐらいで…
「上手くいったら褒美をやろう。たまにはオマエの願いを聞いてやる。ジャスト1分、いい夢見れたか?」
はっと気づくと悠様はいなかった。また夢見せられたみたい。夢…夢よね、やっぱり。
「翠たま?」
精子がうなだれた私を心配してる。悠様への思いで潰されそうな私を。
「悠様のためならこの翠!…夢のためでも頑張ります!!」
(続く)




<<作品倉庫に戻る

inserted by FC2 system