宏海×矢射子(ネタバレあり)
2006/11/23(木) 22:59:12 ID:FjtMLusB


「宏海がさらわれたー!!?」
宏海がいた空間には一枚の紙切れ。内容は阿久津宏海は預かった、とのことだった。
「宏海のヤツ、さらわれたとかいってこの隙に女子部屋でにゃんにゃんしようとしてるに違いない!!女子たちが心配だ!今俺が助けに行くよっ!!」
一瞬の妄想で頭から湯気を出しながら暴走する太臓をあいすの氷がしとめる。
「まだやられ足りないのかしら」
丘や有籐もこれは仕方ないというように、学級委員の暴力を容認した。
「宏海はあんたみたいな変態ほど落ちぶれてないわ。心配するなら我が身を気遣いなさい」
あいすの手にはすでに見慣れた氷の凶器。悠は「旅の思い出です」とその様子をカメラに収め始めた。
「ちょ!悠!!助けっ!!」
「一応夜中なんだから、ほかの生徒が起きないようにな」
丘はそれだけ言うと、その場を有籐に任せて再び見回りに行った。

「あれ…お姉さまは?」
静かになった女子部屋で夕利が辺りを見回しながら言った。
「…お手洗いかなぁ…」


「おい、大丈夫か?」
ぐいぐいと袖を引っ張られながらも、自分を引っ張る人間を心配する宏海。太臓とグルとして教師に怒られるより、こっちについてきた方が楽だと踏んだ行動だった。「そんな歩いて平気なのか?」
宏海の前を歩くは巨乳元生徒会長。昼間に出した大量の鼻血のせいか、足元はまだ少しふらついていた。
本来矢射子が泊まるべき部屋まで来ると、矢射子は左右を見回して周りを注意してから部屋へ入った。
(邪魔はついてきてないわよね…)
続いて宏海を部屋へ招き入れ、部屋の鍵をかけた。
矢射子の部屋は女子部屋や男子部屋と同じく和室で、少し狭い一人用の部屋だった。すでに布団が一組だけ引いてあり、小さなテーブルが部屋の隅に追いやられている。
「なんだよ、話って」
テーブルと一緒に部屋の隅に置かれた座椅子を進められ、宏海は座った。その様子を見てから、宏海を正面から見るように矢射子も布団に座り込んだ。
(今日こそ告白、今日こそ告白)
二人きりというシチュエーションに顔を赤らめつつ、緊張からか不振な動きをとる矢射子。もじもじと布団をいじっていたかと思うと急に頭を抱えて突っ伏した。
「お、おい…」
あからさまに宏海は困っていた。いきなり話があると呼ばれたと思ったら部屋に誘われ、いざ本題となると挙動不審な動きを始めた目の前の生徒会長の思考が読めなかったからだ。


「お前、こんなとこにいていいのか?女子部屋なら一口もいるのに」
その空気にいたたまれず、宏海から話を切りだした。矢射子が夕利を好きだと思いこんでいたので、宏海なりに気遣いを含んだ言葉だった。
「一口が…一口がなんだって言うのよー!!」
突然立ち上がった矢射子からビンタがとぶ。それは見事に宏海の頬に決まり、宏海を驚かせた。
「いてェ!!何しやがる!」
「あ、阿久津がデリカシーないこと言うからじゃない!!」
叩かれた頬を拭って、宏海は矢射子を見た。赤くなった顔に涙を浮かべた瞳。普段強気な矢射子がそんな表情を浮かべていることに、宏海は罪悪感を感じずにはいられなかった。
「…悪ィ」
そんな矢射子を直視できず、目を背けたまま宏海が謝る。
(こいつ、そんなに一口のこと…)
(あたしが好きなのは阿久津なのに…)
宏海は矢射子が突然でた夕利の名前に反応し、照れ隠しで暴力に出たと解釈した。矢射子はまだ勘違いされている夕利とのことを言われ、ついかっとなって手が出てしまったのだ。
「あ、あのね…阿久津に話があるって言うのは…」
やっと矢射子から話が切り出される。
(一口とのことか…?)
(今日こそ告白。今日こそ…)
宏海は次の言葉を待った。だがそれはなかなか出なかった。
(やっぱり…無理っ!!)
「あんた、今度は先生に手を出そうとしたようね!!元とはいえど生徒会長!!そんな輩はほっとけないわ!!」
矢射子はそう叫ぶと、テーブルの上にあった木刀を素早くとり宏海に向かって突きつけた。
(やーん!やっぱり言えない!!)


「やれやれ、見てられないな」
宏海が木刀を押さえ込もうとした、ちょうどそのときだった。ベランダからビデオを構えた悠が声を発した。
「なっ…!!」
「悠!お前、太臓は…?」
矢射子が驚きの声を上げ、宏海はその隙に木刀を取り上げた。
「ああっ!!」
「危なかったな、宏海。王子はあいすによって説教中だ。よく考えたらいつもと変わらんからな。」
「たしかに日常的だな」
宏海は立ち上がって悠に近づき、矢射子から離れていく。
(また…邪魔が…)
矢射子の目から涙がこぼれ、布団を濡らした。悠はその様子を見て、ポケットから1本のテープを取り出した。
「宏海をルリーダたちに貸してやろうと思ったんだが気が変わった。こっちの方が面白い」
「人を勝手に売るな!!ったく…なんだ、このテープ?」


悠は同じポケットから続いてハンディカメラを取り出した。
(四次元ポケットか!!?)
「予備のカメラを貸してやるからすぐに見ろ。愉快なものが入っている」
放心している矢射子に悠が近づき、薄いCDケースを差し出した。
「邪魔をして悪かったな」
ケースを受け取ろうとしない矢射子に、悠は無表情のまま、やれやれとケースを宏海に託した。
『宏海メモリアル vol.2』
水着やハロウィンの格好をした宏海が花とともに散りばめられたそのケースは、受け取り様に本人によって割られた。
「何の嫌がらせだ、てめェ!!?」
「心ばかりの手土産だ。遠慮するな」
「願い下げだ、バカヤロウ!!!」
悠が再びビデオを回し始め、画面ごしに宏海に話しかけた。
「修学旅行の夜は意外に短いものだ。時間は有効に使わねばな」
その言葉を言い終えると同時にベランダから悠の姿が消える。さすがに素早いな、と宏海は姿を追うこともしなかった。


「矢射…」
「ちょっと、頭冷やしてくるわ…いい!?ここにいなさいよ!!」
ものすごい剣幕で宏海をにらんだ後、矢射子は上着を持って部屋を出ていった。
(別に逃げやしねえが…)
ものすごい剣幕で宏海をにらんだ後、矢射子は上着を持って部屋を出ていった。
(別に逃げやしねえが…)
あまりの剣幕につい言葉を失った宏海は、無言のままのそのそと悠から預かったビデオにテープを入れ、小さな画面に目を向けた。
(どうせ悠が撮ったろくでもねぇもんなんだろうな)
テープはしばらくの沈黙の後、画面をだんだん薄紅色に染め、そこに白地の文字が浮かんだ。
『宏海メモリアル〜いつもあなたを見ています〜』
パタンっ
宏海はビデオの画面を勢いよく閉じた。
(あいつ…ホントにろくでもねぇ!!でも、あのサブタイは…?)
自分のビデオを見るという嫌悪感と、サブタイトルの醸し出す好奇心が宏海の中で交わる。
(だー!!もう今更だ!)
再びビデオの画面を静かに開き、停止していた画面を動かす。
(これはプール…これは図書館…運動会…ハロウィン…)
いつのまに撮られていたのかはわからないが、とにかく最近の宏海の姿が画面一杯に映し出される。そして後ろには、自分の姿を追う矢射子の姿。たまにズームにされる矢射子は顔を赤らめたり、あいすといる画面では悪魔の様に顔を歪めていた。
そして最後の画面は宏海と矢射子が合体した日の様子だった。


画面は一の持っていたTシャツのアップで一度止まり、また動き出した。
(風呂場まで撮りやがって…)
父親の乱入画面がバックステージから映し出される。その画面に映る自分は矢射子の体をしていた。
(そういや……)
事故とはいえ触ってしまった矢射子の体。その柔らかい感触が宏海の手の中に思い出された。
(…くそっ…)

「ふー…」
矢射子は廊下を歩きながらもそもそと上着を着る。先ほどまでの体の火照りは嘘のように引いてしまっていた。
(また言えなかった…邪魔も入っちゃったし…)
風呂場へと通じる廊下にある窓から月を眺めるように、矢射子は立ち尽くした。
(でも、邪魔が入らなかったら…)
矢射子の想像しうる限り、よい方向へは向きそうもないことは確かだった。悠の乱入はある意味では矢射子にとって助け船になったのだった。
(これは…まだいけるのかな)
宏海が言うことを聞いていれば、まだ自分の部屋にいる。まだ時間も十分にある。
(…まだ…まだいけるわ!!)
矢射子は髪を結わき直して部屋へと戻り始めた。


「阿久津宏海ー!!」
バァンと開いたドアから勢いよく矢射子が入ってきた。
(でェーー!!!?)まさかこんなに早く矢射子が帰ってくると思いもしなかった宏海は、まだビデオを開いたまま左手に持っていた。 画面はちょうどテープが終わって黒くなるところだった。
(危ねェ!!)
なんとなく自分が何を見ていたのか知られたくなかった宏海はこの絶妙なタイミングに感謝をした。少なくとも一瞬は。
「は、早かったな…」
『ダンダンダンダーン!!!』
宏海が矢射子に顔を向けた瞬間、ビデオからけたたましいファンファーレが鳴り響く。
「「何だ!?」」
二人が声をそろえて画面をのぞき込んだ。画面には見覚えのある赤と黒の髪が写り、その後手、首周りのリボンが映る。そして顔が映り、そこを中心にズームアウトされ、とまった。
『俺を 食・べ・て』
レース付きのリボンと生クリームを身にまとっただけの少し顔の違うの宏海が画面上から出した声は確かに本人のものだった。
「「……!!!」」
二人の時間が止まった。
「ナーーーーウ!!」
宏海が目を飛び出させながらハンディカメラを床に叩きつける横で、布団が赤に染まっていく。それに気づいた宏海が矢射子の方へ振り向いた。
「ぬぁーーー!!!?」


振り向いた先には矢射子の姿はなく、斜め後ろから放射線状に弧を描いて飛び散る大量の血が宏海の目に入る。
(なんか見たことあるー!!)
昼間とほとんど同じ状況が再現される。宏海は急いで血まみれの矢射子を起きあがらせ、止血を試みる。
(こいつ…出血多量で死なねェか!?)
(ダメよ、矢射子…また阿久津の前なのに…)
図書館で想い人本人から言われた鼻血キャラは矢射子にとって解いておきたい誤解の一つだった。
「だ…大丈夫よ…」
「いや!血ィ垂れてるから!!」
矢射子の血は顔や布団に留まらず、二人の衣服も緋色に染めていく。
(やっ!あ、阿久津の服が…)
血が跳ねた宏海の服に気がつくと、矢射子は勢いにまかせて鼻を啜った。
「おい!!ばか!」
「なっ…かはっ!!」
「うわっ!!!」
むせた矢射子は咳と同時に大量の血を吐き出す。その後、血は止まった。
「もぉ…いい年して口から盛大に吹いちゃったよ」
真っ赤に染まった口元に笑みを浮かべながら、矢射子は洗面所からタオルを持ってきて何より先に宏海の服を拭いた。二人の距離が縮まる。
(やべぇ…)
先ほどビデオを見たときに感じた、女としての矢射子を意識してしまう。宏海は矢射子の胸元にいく視線を無理矢理そらした。
(あのビデオってやっぱり…)
「―阿久津?」
「うぉっ!?な、なんだ!!?」
「そ…そんな驚かないでよ。こっちが驚くじゃない!!」
矢射子はやっと自分の口周りについた血を拭い出す。あれほど出血したというのに、きれいなピンク色をした唇が姿を表す。宏海の視線は意識とともにそこに止められた。
「あ、阿久津が悪いんだからねっ!!」
「んあ?」
矢射子はもはや自分の服を拭うのは諦め、布団も同様に手をつけようとはしなかった。
「阿久津が…あんなビデオ見てるからっ…」
「あれは…!!」
自分で思い出しても気持ちの悪い映像が頭の中をよぎる。宏海は矢射子の肩に手をかけてうなだれた。
「頼むから触れないでくれ…」
宏海からはこの世の終わりのようなオーラが漂う。
(このままじゃ告白どころじゃないわ…!)
矢射子は肩に置かれた宏海の手を震える指で掴んだ。宏海の体がびくっと揺れる。宏海が顔をあげるのを見計らって、深呼吸を一つしてから用意した言葉を言い始めた。
「あたしは、どんな阿久津だって…阿久津だって……」
(好き!好きって、たった二文字言えばいいのよ、矢射子!!)


矢射子の肩から離された握り合った手は二人の距離の真ん中に置かれた。矢射子の顔がどんどん赤くなる。
(頑張るのよ、矢射子!!)
矢射子の頭から湯気が出て、口がぱくぱくして。目の前で見ている宏海もつい緊張してしまう状況だった。
(まさかこれって…)
先ほどのビデオで感じた矢射子の気持ちを目の当たりにして思い出す。信じられないが、そう考えると全てがつながってしまった。
(こいつ、どう考えても…)
「あの、ね…だからぁ……」
矢射子の手を握る力が強くなる。その手には汗をかき、小刻みに震えていた。その様子をみた宏海はふっと笑って手を離した。
(ここからは男の役目か)
「あっ!!」
紅潮した矢射子が離された手を追おうと顔あげると、優しい目をした宏海と目があった。
「え?」


「あ、阿久津っ!!離して!!」
「お前がイヤなら離す」
突然抱きしめられた矢射子は宏海の考えが読めなかった。まさに夢のような展開だったのだ。
(ど、どうしたのよ!阿久津ー!?)
「矢射子…お前、好きな奴いるんだよな?」
矢射子の体が、宏海の腕の中で跳ねる。
「乾じゃなくて」
「あ、当たり前じゃない!!違うわよ!」
矢射子には宏海の、宏海には矢射子の心拍が伝わってくる。飛び出すんじゃないかと疑うほど早い鼓動。
「一口は?」
「だから誤解だって!!…言ってるじゃゃない…」
(あたしが好きなのは…)
続く言葉は出てくれなかった。代わりに心にもないことがどんどん口を衝いてでてくる。腕は宏海を突き飛ばしていた。
「もうあんた、何考えてるのかわからないのよ!!あたしのこと惑わすばっかりで、全然気持ちに気づいてくれなくて…佐渡さんとは仲良くしてるし、太臓はくっついてるし…何なのよ、もう!!!」
矢射子の瞳に涙が浮かぶ。宏海は自笑ともとれる笑みを浮かべた。
「…関わりたくないってか?」
「そうよ!!悪魔付きの男なんか…願い下げだわ!!!」
はぁ、と息をついて矢射子は言葉を止めた。後悔がすぐに胸の奥からこみ上げてくる。目を閉じて耳をふさぎたかった。
(…あたし、何言ってるのよ!!告白どころか…最悪じゃない…)

「俺は好きだけど。お前のこと」

「好きだ」

宏海の口から、それは確かに発せられた。真っ直ぐ矢射子の顔を見据えて、真剣な顔で伝えられた。


宏海の視線を捕らえた矢射子の頬に一筋の涙が伝う。衝動に堪えきれず体が前に出て、宏海に抱きつく。
「どうして人の言いたかったこと、先に言っちゃうのよ」
ふえーんと泣き声をあげながら宏海の胸にうずくまる矢射子の背中を優しくなでながら、宏海は矢射子の長い髪の毛を触った。
「先手必勝だな」
「遅すぎるわっ」
ギュッと矢射子の体を抱きしめると、宏海の鼻腔にかすかな桃の香り。
「お前、いい匂いするな」
「やっ、ちょっ…ゃん…阿久津ー」
宏海はうなじに鼻を近づけ、そのまま鎖骨に移動させ上目遣いになる形で矢射子をとらえた。頬から顎に伝わった矢射子の涙を舐めあげると、矢射子は顔を真っ赤にして何もいえなくなっていた。
そんな矢射子を可愛く思い、固まったままの彼女の頬にキスをした。
(やべェ…とまんねぇかも)
潤んだ瞳で宏海を見上げる矢射子が、自然にその瞳を閉じた。普段強気の矢射子からは遠くかけ離れた、少女の矢射子が宏海の目の前にいた。


(うわっ…これ、本当に矢射子か?)
肌をピンク色に紅潮させ艶やかな雰囲気を醸し出している目の前の少女に戸惑いながらも、宏海は唇を重ねた。
(また…桃の香り…)
(阿久津…)
目を閉じたまま、互いをもっと求めようと唇の角度を変え、それでもまだもの足りずに舌を絡め合う。時々矢射子が苦しそうに声をあげ、それでも離すことはしなかった。
(気持ちいい…)
心地よさに矢射子がとろけそうになり、眠気すら覚えたところでようやく宏海の唇が離れた。離れるのを惜しむように銀色の糸がつーっと引いた。
「悪ィ、とまんねぇ」
キスの余韻に浸る矢射子を、血まみれの布団を敢えて避け、畳の上に押し倒した。矢射子の反応も見ずに真っ赤になった服の胸元を開ける。
「痛っ!ぁ、阿久津…ぁん!」
「血が染みちまってる…落とさなきゃな」
そういうと宏海は、矢射子の鎖骨から胸にかけての血が滲み固まっている場所を舐めあげていった。いちいち反応のある矢射子が、そのたびに赤く染まる肌が愛しくてたまらなかった。
「あっ!ん、んン!!…あぁん!」
たまに触れるぴんと立った頂から刺激が走る。体を捩らせて矯声をあげる矢射子の姿はひどく官能的だった。
「矢射子…」
宏海が満足した口調でつぶやいた。手はだんだんと下の方へ向かい、衣服を着実に脱がしている。
『阿久津宏海』


突然、はっきりとした口調で名前を呼ばれ、つい「何だ?」と返事をしてしまったのが間違いだった。
顔を上げるより早く、ものすごい風に吸い込まれる。宏海は慌てて矢射子の体を抱きしめ、覚悟を決めた。
(ちくしょーー!!!)
宏海は自分の浅はかさを恨みつつ、ドッペルゲンガーの口へ吸い込まれてゆく。呆然とする矢射子が腕の中で宏海を抱きしめ返した。


「くそー、宏海の奴!勝手にいなくなりやがって!おかげであいすにオレが悪いみたいに思われたじゃねーか!!」
「王子。あれは照れ隠しですよ」
「はっ!!まさかあれか!"太臓にパジャマ見られちゃった…初夜まで見せるつもりじゃなかったのに"ていう照れ隠しなのかぁ!!?くそ、乙女心読み損ねた!!」
やっとあいすの拷問から解放され、氷も溶けて自由になった太臓はトイレに行くついでに宏海を探していた。何事もなかったかのように、その横には悠の姿。
「用も足したし、めんどくさいから召還するか!」
ズボンを下げたまま宏海を召還する。悠はいそいそとビデオを太臓のアスタリスクゲートに合わせ回し始めた。
「来たぁ!!!」
目映い光とともにアスタリスクゲートから生まれた一つの影。


「ナーーーウ!!!」
光の霧が晴れる前に、めり込むほどの蹴りが太臓の顔に決まった。
「ムーミン!?てっTシャツ一枚!!?」
顔をへこませて転がった太臓が普段では想像できない早さで起きあがる。召還した人物の姿を定めるとその胸に飛び込んでまた殴られた。
「近づんじゃねぇ」
床に叩きつけられた太臓にさらに蹴りが入る。太臓が助けを求めようと顔を上げた瞬間、そのまま力つきた。
「宏海。なかなかの勇姿だぞ」
「あぁ?おわーー!!!!」
視線に入る萎えた太臓とは裏腹に、雄々しくそびえる宏海のモノがただでさえギリギリでそれを隠しているTシャツを持ち上げていた。それを下からモロに見てしまった太臓が萎えるのは当然のことだった。
(あ…阿久津のが…!…あれ?また合体してるー!!!)
(やべぇ、さっきので…)
合体した矢射子と宏海の顔が真っ赤になる。
(や…やだ!!)
矢射子は先ほど与えられた刺激のためにすっかり硬くなってしまった胸の突起がTシャツを着ていても露わになり、それを隠そうと手で胸を覆った。
その場をどうにかしようと宏海は下半身の熱を抑えようとするが、手に押しつけられたGカップの胸が先ほどの様子を思い出させそれすらままならなかった。
(ここは……)
「走れ!!!」
萎えている太臓をさらに踏み台にしてから矢射宏海は走り出した。その走り去る姿を悠のビデオが記録していた。
「生き残りカップルか」
悠はカバンから杉音に借りたいつぞやのモニターをとりだす。しばらくして姿を表した矢射宏海の姿に満足してモニターを閉めた。
(素晴らしき眼×操奴の力。まぁ、元々好意がなければあそこまでかからんが)
「王子、修学旅行の夜はまだ終わっていませんよ。むしろこれからです」
干からびている太臓に声をかけた。



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