宏海×矢射子
2006/10/16(月) 01:35:35 ID:SwjokNqE



矢射子は焦っていた。
人気投票の〆めに急いで着替えるように渡されたバニー服。何で自分までがと思いながらも、
宏海が着ると知って同じ服を着たいと思ってしまったところに罠が待ち受けていた。

(どうしよう……。)

サイズが合わない。胸が全然入らないのだ。
いくら押し込んでも、布を引っ張り上げても、下半分も入らない。
いくら頑張ってみても、布に乗り上げるように胸がはみだして大事な部分が隠れてくれないのだ。
元々上背がある上に、校内一の巨乳である矢射子が苦労をしている間に、他の女子はどんどん
更衣室から出ていってしまい、残っているのはいつしか矢射子だけになってしまった。

(このままじゃ遅れちゃう……!)

焦れば焦るほど胸が溢れ、時間ばかりが過ぎていってしまう。
更衣室のドアを叩く音がして、まわるが声をかけてくるのに『すぐに行くわ』と返事を返したものの、
矢射子は途方に暮れていた。

「どうしよう…この布がもうちょっと……んくっ、入らないわ……。」

胸の布が足りないのをどこの布で補うか。せめて下着が黒なら、肩ヒモを横に押し込んで
ブラの上からバニー服を着込み、胸の部分がレースだと誤魔化す事も出来ようが、
矢射子は母親のSMセットを思わせるような黒やアダルトな雰囲気の下着が嫌いだった。
今日のブラも淡い水色で、そんなものの上からバニー服を着てはモロに下着だとバレてしまう。
そんな恥ずかしくもみっともない格好を人に見せる訳にはいかなかった。

(こうなりゃ最終手段よ……!)

ヤケになり、矢射子は一旦すべてを脱ぎ捨てた。何も身につけないまま網タイツを穿き、
その上からバニー服に足を通す。
思いきり引き上げて、本来は半分は尻を包むはずの布がTバック状に食い込むまで引っ張ると、
なんとギリギリで布の上部が乳首を覆ってくれた。

「あくっ……!」

夢中になって布を引っ張り上げる。何とか無理矢理詰め込んで他の女子と同じ位まで隠れ、
それに安堵する矢射子は別の部分が異常なまでにハイレグになっている事に気付かない。


「これでいいわ…。んぅっ、ちょっと歩きにくいけど……」

網タイツの粗い目が感じやすく柔らかな箇所に食い込む。なんとかこらえ、履き慣れない
高めのヒールにフラつきながら、胸がこぼれないように慎重に歩いてドアを開けて外に出た。
すっかり人気のなくなった廊下に、もしや自分は間に合わなかったのかと嫌な汗が胸の谷間を伝っていく。

「急がないと……!」
「いや、一応まだ大丈夫だろ。」

不意にかけられた宏海の声に、驚いて矢射子は振り返った。

「阿久津!?……ああッ!!」

勢いが良過ぎた。不馴れな靴が災いして矢射子は足を捻り、転んでその場に尻もちをついてしまったのだ。

「きゃあぁっ!!」
「あ、オイ!」

驚いたのは宏海である。ちょっと声をかけただけだったのに、いきなり目の前でコケる矢射子。
倒れながらも体勢を整えようとした根性は見事だが、根性以上に見事な乳房がぶるるんと弾け、
ピンクの乳首ごと弾みながら服の外に踊り出る。
あまりのおっぱ…いや、あまりの事に、支えようと伸ばしかけた手が空を掴み、非常に見たいが
見ちゃ悪いと伏せた視線のその先では、尻もちをついた矢射子の足がこれまた見事な食い込みM字を描いていた。

「痛っ……」
「〜〜〜〜ッ!!」

ポーズがエロヤバ過ぎである。
しかも、タイツに押されて編み目の隙間から盛り上がってるアレ、何かちょっと薄い肉っぽいピンクのものは、
非常にヤバいアレではなかろうか。

「い…嫌アアァァッッ!!!!!!」

つんざくような悲鳴が廊下に響き、宏海の視界に腕に潰された下乳がふにっと現われた。それだけで
他の女子の胸以上あるんじゃないかというボリュームだ。
更に、矢射子は気付いていないのか、悲鳴と共に膝は寄ったがつま先は寄らず、一番ヤバい部分が
丸出しのままであった。

「おわッ!」

硬直したままの宏海を我に帰らせたのは、後ろから肩を引く手であった。

「悠!」
「人が来るぞ宏海!更衣室に急げ!!」

促されて意識を向ければ、何事かと問う声と走る足音が耳に入る。こんなところを見られては、
オスのバニーがメスのバニーを襲っていると誤解されかねない。

「そうじゃないぞ宏海。女装男のレズ行為だ。」
「更に酷い誤解が!?」

焦りのせいか普通のツッコミになってしまう。
いや、それ以前に呑気にツッコんでる場合ではない。

バカをやってる間にも足音はどんどん近くなる。


「くそッ!オイ、早く更衣室に戻れ!ここはオレがテキトーに誤魔化しておくから!」

蹲ったままの矢射子に向かって宏海は叫ぶが、矢射子は胸を隠したまま青い顔をして座り込んだままだ。

「あ、足が…」
「挫いたのか!?」

青ざめて頷く矢射子。人の気配はすぐそこだ。

「仕方ねえ、暴れんなよ!」
「きゃあ!?ちょ、ちょっと、何すんのよッ!」
「いてェ、暴れんなって言ってんだろ!」

ギャーギャーと騒ぐ矢射子を抱え上げ、宏海は女子更衣室に向かって走り出す。

「悠!後は頼んだぞ!」

嫌な奴に借りを作る事になるが、今の状況は不用意に声をかけた自分の責任でもある。
そんな細かい事に責任を感じてしまうから流され不良と化してしまうのだが、
まあそれはうこんのポスター並みに今はどうでもいい事だった。

「これでまた貸しが出来たな宏海!」

背後から聞こえる嫌なセリフに心の中で膝を折りながら、なんとか宏海は人が来る前に矢射子を
更衣室に押し込む事が出来たのだった。


  * * *


更衣室のドアの前。

宏海は薄いドアに背中を預けながら、中の矢射子に声をかけた。

「オイ、…足は大丈夫か?」
「……うん…。」

細い声だった。いつもの勢いがあるというか、血の気の多い物言いからは想像もつかないほどの。

「あー…、……悪かったな。いきなり声かけたりして。」
「べ、別に阿久津が悪い訳じゃないわよ!」

ドアの向こう、更衣室の中で蹲ったまま、矢射子は言葉を返した。

「だから平気よ…。それより、主役がいつまでもこんなとこにいていいの?
 早く行かないと間に合わなくなるわよ。」

(……見られちゃった…。)

最悪だった。あんなに苦労して押し込んだ胸は無惨に服から溢れ、多分絶対に見られて、
足まで捻ってあの場から自力で逃れる事が出来なかった。
宏海がここまで運んでくれはしたが、情けなくて恥ずかしくて惨めで、いろんな事が頭の中で
ぐちゃぐちゃになって涙が出そうになる。


「ほら、早く行きなさいよ!」

それでも、これ以上宏海に迷惑をかける訳にはいかない。まだドアの前にいる宏海は、足を挫いた自分を
気遣って、一緒に集合場所へと行ってくれるつもりなのだろう。
ただでさえ遅れ気味なのに更に足手纏いになるのはごめんだと思う矢射子に、この状況をおいしいとか
宏海と2人きりだとか思える余裕はなかった。

それなのに。

「バカ、オレだけ行ってもしゃあねえだろ。大体、野郎のバニー姿が見たいなんて変態は悠だけでたくさんだ。
 オレを口実にアンタとか女子のバニー姿が見たいってのがほとんどだろうが。」
「‥‥‥‥。」
「だからほら、早くしろ。もしかして立てないくらい傷めたのか?だったら保健室まで肩貸すが。」
「だ…大丈夫って言ってるじゃない!」
(なんで阿久津はそんなに優しいのよ…!)

別に優しさではなく、宏海にしてみれば単に責任を感じているだけだった。大丈夫だと言う割りには声が
頼りないままの矢射子は心配だが、出来れば少しでもムキムキムーチョなバニー姿を人前に晒すのが遅く
なればいいとさえ思っている。

が、それが優しさに見えるフィルター付きの矢射子は、動こうとしない宏海の気配に俯いて唇を噛んだ。

「大丈夫ってんなら早くしろ。オレにも責任あっからな、ほんとに大丈夫なの確認してからじゃねえと
 安心できん。」
「わかったわ…。でも、ほんとに大丈夫なんだからねッ!」

どうやら諦めるしかないようだった。のろのろと胸に手を伸ばし、矢射子は散々苦労した胸をまた服の中に
押し込みはじめる。


静かになった廊下で、宏海は大きく息を吐いた。
どうやら矢射子はやっと準備を始めたらしい。保健室まで送れれば時間を稼げると少しでも思った自分を
反省する。もう少し気遣ってやればよかった。盛大にポロリをやった挙げ句、足まで挫いた矢射子が
混乱しているのは当たり前だ。きっと今頃はあの胸を服の中に詰め込んでる最中だろう。

(やべぇ…。)

あらわになった白く豊かな矢射子の胸を思い出し、宏海は一人で赤くなった。
乳首までハッキリと見てしまった。ピンクだ。乳輪は胸の大きさとバランスが取れていて、ふよんと現わ
れた下乳は本当に柔らかそうだった。

(オイ!マズイだろうが!!)

下と言えばあの食い込みだ。黒い布に押し分けられて左右にこんもりと盛り上がった肉が、網目に逆らい
ながら柔らかさを主張していた。隙間から覗いていたアレは絶対に例のアレだろう。

頭を振って散らそうとするが、一度思い出してしまったものは簡単に離れてくれなかった。
下半身に血が集まってくる感覚に宏海は青くなる。矢射子が着替えて出てくるまでに散らさなければヤバイ。
そう、矢射子は今あの胸を布に押し込んでいて、多分その布はぱつんぱつんに膨らんでいて…。

(くそッ…!)

焦っても、目の前で布がテントを立てはじめる。服の上から掴んで腹に押し付けるが、その感触で
ありえないほどに滾っているのがよくわかった。そのまま扱きあげてしまいたいほどに興奮してしまっている。

そこに。

「いい格好だな宏海」
「悠ゥ!?」


不意にかけられた声に思わず目が飛び出す。そこにはカメラを回す悠の姿があった。

「服が下がって乳首が出てるぞ、宏海。」
「おわァ!?」

慌てて目をやると、勃起したナニに布を奪われて胸あてが下がり、自分の乳輪が丸出しになっていた。

(最悪な絵ヅラだー!!)

だが、それは絶妙な萎えネタでもあった。視線の先で、あんなに猛っていたモノがみるみるうちに
しょんぼり萎れていく。

「こうまでレアな絵が撮れるとは思わなかったぞ、ナイスだ宏海!」
「うるせェ!!」

血の涙を流しながら片手で布を引っ張りあげて乳輪を覆い、片手を振り回して悠を殴ろうとするが、
悠は相変わらずいとも簡単に宏海の拳をすり抜けていく。

「お待たせ……って、何やってるのよ?」

ガチャリとドアが開いて、ひょこりと片足を引きずった矢射子が顔を出した。

「なんでもねェ!!」
「うむ、それじゃオレは先に行くぞ。そろそろ王子がまわるあたりに自動防御を喰らっているだろうからな。」

カメラを回しながら悠が逃げていく。がっくりと床に両手をついて、宏海は涙した。
矢射子が不審そうに覗きこんでくる。視界に現われた谷間に我に返り、少しフラつきながらも宏海は立ち上がった。

「阿久津…?」
「……何でもねえ。それより行こうぜ。キツかったら肩貸すから言え。」
「? ええ……。」


お互いに別の理由で気まずいまま廊下を歩く。
無言で歩いている内に集合場所まで着いた。

「遅いですよ!他のみなさんはもうステージの上で幕が上がるの待っています!」
「……何でこんな事に実行委員がいるんだ。」

げんなりした声で宏海が言う、それが更衣室を出てから最初の言葉だ。

「そうね……。」

何を話していいのかわからずに困っていた矢射子は、ここでもやはり相槌しか打てずにいた。

(私のバカ!謝れもしなかったわ…。)

らしくもなくしゅんとしたままの矢射子に、宏海がぶっきらぼうに言った。

「……あのな。また、その…さっきの廊下みたいな事になったらヤバイだろ。だからなるべく腕とかも挙げねえでオレの後ろにでも隠れてろ。」
「阿久津…?」
「何かあって太臓が飛びかかってきても、その足じゃいつもみてえに防げないだろうが。そうなっちまったのはオレにも責任あるし、太臓のガードは引き受けてやっから。」

胸がじんとする。火照る顔を上げられず、矢射子は俯いて言った。

「……ありがとう。あと、……ごめんなさい。」
「バカ、気にすんな。行くぞ。」
「はい…!」

ライトの白い光の中、幕が上がる。

「みんな、投票ありがとーう!!」

バニィーンとはしゃぎ跳ねる中、矢射子は頬を染めながら宏海の後ろに隠れていた…。





<<作品倉庫に戻る




inserted by FC2 system