悠×あいす 名無しさん@ピンキー :2006/01/07(土) 00:07:39 ID:uCYmPHeq


「ったく可愛くねー女だな!」
「何のことかしら」
告白を断られた腹いせで負け惜しみを言う上級生の歪んだ顔は、心底醜いと思った。
こんなところに来てしまって、時間の無駄になったとあいすは溜息をつく。
普段は下駄箱に手紙など入っていても、差出人の呼び出しに応じることは決してない
のだが、単なる気紛れで今日は体育館の裏まで来てしまった。
こんなくだらないことになるのなら、さっさと帰れば良かった。
いや、もう用事は済んだのだから今すぐに帰ろう。
そう思い直して悔しげに睨んでいる相手にくるりと背を向けたあいすの怜悧な瞳に
映ったのは、どこに隠れていたのか五人ほどの上級生たちだった。
「どこ行くんだよ」
「お気持ちは嬉しいけど、応えられません。そう言って断ったの。だから私の用件
はこれでおしまい。そこをどきなさい」
人数に勢いがついたのか、上級生たちはあくまでも強気だ。
「そうはいかねーんだよ。お前みたいな可愛い気のない奴はシメないとな」
にやにや笑いが寫有為に伝染する。こんな場面は何度も見たことがあるが、やはり
嫌な場面だ。力ずくなら女は屈服すると思っているバカな男の典型だ。
実界人に危害を加えないのが間界人としてのルールではあるけれど、それにはもち
ろん例外もある。
危害を加えられそうになった場合だ。
当然、状況、人数など細かい規定はあるが、この場合はすんなり当てはまるだろう。
ならば遠慮はいらない。
そう思い直してしばらく様子を見ることにした。
あくまでも間界人は実界人を重視しなければいけないのだから。


「シメる?つまらないことだわ」
「んじゃ、始めっか。あいすちゃん」
きっと、どんな答えをしても結果は同じだったのだろう。そんな獣じみた異様な雰囲気
が漂っている。最初の一人と合わせて六人がじりじりとあいすに近付いてきた。
「何をするつもりかしら」
「さあ、何だろうねえ、楽しくやろうねえ」
だらしのないへらへら笑いを浮かべながら、六人はそれぞれあいすの腕や制服を掴ん
だ。あいすを可愛い気のない女だと言いながら、男の優越感を満たす言いなりな女に
は逆に興味も持たない身勝手な嗜好がそこにはある。
つくづく歪んでいる、と思った。
これ以上接触をしてきたら、攻撃しよう。
そう決めて一触即発の場面の中、あいすは気を集中していた。
そんな時だ。
「先輩方、こんなところで犯罪は止めて下さいよ」
いつもは太蔵にくっついている悠が、やはり今日もハンディカメラを回しながら校舎脇か
ら出てきた。普段から油断のならない相手だとは思っているが、こんなところで出くわ
すとは思ってもいなかった。
「何だお前、邪魔するな!」
すっかり気が昂っているらしい六人は、口々に何か喚きながら悠に殴りかかっていった
が、まるで歯が立たなかった。いつもの何を考えているか分からない無表情でカメラを
構えながら四方八方の攻撃から身を交わし、ついでに一発ずつ殴る遣り方は全く見事
なものだ。
そのうちに、六人ともが地面に倒れこんでしまった。
「畜生…」
「突然のことで動揺してしまいまして申し訳ありません。ひょっとしたら殴ってたかも知
れませんが、もちろん正当防衛ですからね。それと、『お前みたいな可愛い気のない奴
はシメないとな』あたりから撮ってますから、もし、今後佐渡さんに何かあった場合はこ
のビデオを警察に提出しますから」


何の感情もない声だった。
あまりにも波がなさすぎて、あいすを集団で暴行する気だったらしい六人はすっかり気
がそがれたように呆けた顔を一瞬晒した。
「いいですね、先輩方」
静かな声が、その場に決着をつけた。
「畜生、憶えていろ!」
こんな時は誰もがこう言うのだろうか。到底頭が悪いとしか思えない台詞を吐いて、六
人は渋々立ち去って行った。実際にカメラが回っていてはどう足掻いても不利だと判断
出来る程度には理性が残っていたのだろう。
何にせよ、助けられた形になったのが不満だった。




「どうした」
「どうもしないわ…貸しを作るのは嫌いなの」
日が落ちてきていた。もう学校の敷地内には他の生徒は残っていないだろう。冷えた空
気が肌を刺すほどだったが、そんなものは気にならなかった。
黙って制服を緩めたあいすを冷ややかに眺めていた悠は、ナーガ族特有の細い虹彩を
一層すうっと細めた。
「そんなもので、貸し借りなしにすると?」
「そう。あの男たちが醜いほど欲しがっていたものよ。それで相殺」
「随分安い対価だ」
基本的に、喜怒哀楽の感情の振幅のない少年がわずかに笑ったように見えた。要求を
呑んだと安堵した途端に後ろ抱きにされて壁に押し付けられる。がっちりと両腕を封じら
れては強がりを言うのもやっとのことだ。
「な、何よ…やっぱりあんたも」
「据え膳なら試しに食べてもみたいだろう。たとえ毒でもな」
囁くような声の後にぺろりと耳を舐められ、初めて本能的な恐怖を感じて身が竦んだ。大
蔵などとは全く違う、策謀を巡らすのを日常茶飯事にしているタイプの間界人は幾ら魔界
領事といえどもそれほど扱い馴れているとは言えない。


「あ、うっ…」
自分が仕掛けたこととはいえ、あっさりと逆手を取られていいようにされている不覚さを嘆
いている暇はなかった。次第に外気に晒されていく肌に鳥肌が浮く。
「もっと抵抗してもいいぞ、つまらないからな」
思った以上に手馴れた様子で制服をはだけ、肌を撫でている悠の声はこんな時でも苛立
たしいほどに静かだ。自分だけが追い上げられているような気がして、それが更に敏感さ
を増していく。
「私に、命令しないで…あぁ…っ」
「こんな状況で、よく偉そうな口が聞けるな」
「うあっ!」
がりっと強く耳を噛まれながら、思い切り両方の乳房を揉まれて一瞬理性が飛んだ。忘れ
る筈もない、この少年は間界一残忍で狡猾な種族だということを。ならばこの先どうなって
しまうのか、全く想像がつかなくなった。
それなのにこの場で借りを返そうとした自分の迂闊さに、あいすは悔し涙を滲ませる。
「…んっ…」
ざらりとした感触の壁に必死で縋りながら、湧き上がってきた体の中の熱の激しさにただ
喘ぐことしか出来なくなってきていた。こんな風にして手もなく囚われてしまうことが最初か
ら分かっていたら、あんなことは決して言わなかったのに。
もう何もかも遅いというのに、そんな後悔だけが頭の中を一杯にしていた。
「あ、ぁ、はああっ…」
しかし、そんなある種の余裕も吹き飛んでしまった。もう濡れ始めているショーツの中に手
を入れられたからだ。どこをどうすればいいのか知っているかのように、指先が余計な動
きなど一切無しで的確に淫核を探り当て、快感だけを与えてくる。その手口にまだ何も知
らないあいすはひとたまりもなく堕ちた。
体に溜まりきった熱が淫らに渦巻いて、苦しいほどだ。
「い、嫌っ、い、やだってばっ…」
「…嫌か、それはいい」

「な、何を世迷言をっ、あああっ!」
ショーツを下げられたと思った次の瞬間、抵抗の隙も与えずに後ろからひどく熱いものが突
き立てられた。ずぶずぶと中に沈んでいく感覚が女としての本能を悪戯に逆撫でして、本
気で空恐ろしくなった。
「あ、嫌っ、い、たいっ…!」
苦し紛れに無理やり硬い壁に爪を立てたせいで、指先から薄く血が滲んでいるのにも気付
かない。
「何だ、初めてか。まあそんなことは俺には関係ないが」
声は相変わらず静かなままだが、本性を剥き出しにして思う存分に獲物をいたぶっている
少年がわずかに愉快そうな声を 出す。
まだそれほど慣らされてもいないそこが、奥の奥まで開かれて男を受け入れている。そん
な現実を頭では許容しきれずにパニックを起こしそうだ。中で傲慢に蹂躙しているものはど
んどん硬くなって敏感な粘膜を擦り続けている。
「あ、あぅうん…もう、もうや、めてっ…」
「まだだ。据え膳になるなら、もっと盛大に振舞え」
「あ、い、いやっ。いやよおおっ…!」
普段の冷静さも忘れ、あいすは翻弄されていた。逃れようにもがっちりと腰を押さえ込まれ
て執拗に欲望を打ちつけられていてはかなわない。壁を引っ掻く指先から、また新たな血
が滲んだ。
「ひ…何?」
一切の前触れもなく、繋がったまま片足を抱え上げられ、あいすの体は壁を背にする体勢
にされた。ごく間近で悠の細い虹彩を目にして、さっきまでの本能的な恐怖が更に深まっ
ていった。
「あいす」
「…何よ」
「お前は面白いな」
言葉の意味が頭の中で全く繋がらない。ぼんやりしているあいすの表情にそれほど感慨
もないのか、悠は突き上げを再開した。
「あぅ、嫌、もう嫌だってばっ。あああっ…!」


擦れ合っている部分がじわりと熱くなる。
考えたくもないのに、感じているのか中から溢れてきた愛液がとろりと流れ落ちて腿まで
を濡らしている。
こうなるなんて思ってもいなかったのに、満更悪くもない気がするのは何故だろう。それだ
けが分からなかった。
「そろそろいくぞ、あいす」
どこか満足そうな声の響きで、傲慢に陵辱している少年が喘ぎ続けて半開きになってい
る唇を強く吸ってきた。
「ん、ん…う、んっ…」
体の中を渦巻く熱がもうすぐ放出される。待ち遠しいようなそんな感覚があいすを支配し
て、陶酔感を一層強めていた。
「いいな、あいす」
「…あ、も、もうっ…」
揺さぶられる体にひときわ大きい衝撃が加わった瞬間、全てがフラッシュのように発光し
て後は何も分からなくなってしまった。

「どうして」
身支度をしながら、あいすは側にいる少年に尋ねた。
「何だ」
「どうして、大蔵なんかについてるの」
「知りたいか」
元通りに制服を身につけてしまうと、普段の沈着さを取り戻したあいすは一筋乱れていた
髪を指先で撫でつけた。
「ナーガの者は間界一聡明な策略家。だからこそたまに疑問に思うわ」
「お前も間界人ならば、分からないではないだろう」
「…まあ、ね」
上手く交わされたような気がしたが、別にどうでもいいことだ。ともかく、今日のことはすぐ
に忘れてしまえる程度の出来事でしかない。

そう思っていたのに。
以後、度重なる逢瀬を重ねることになるとは、その時のあいすは思ってもいなかった。



終わり




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