ルリーダ×小城
2006/07/28(金) 19:50:07 ID:yPJefQ6p




目に飛び込んできた傷だらけの肌に、どう反応すべきか分からなくてつい、うろたえた。
そんな自分の態度を見て、先生が苦笑を浮かべた事に、何だか申し訳なく思った。
去年赴任してきた美術教師といい、最近ドキ高に来る女教師は変わり者の美人が多い、と
男子生徒の中で大盛り上がりだったのだが、一体彼女の過去には何があったのか。

尋ねる事が出来ないまま――― いや、今はそんな事どうでもいいんだ。
先程感じた申し訳なさも吹っ飛んだ。とにかくこの状況から抜け出す術を誰か、教えてくれ。


「あの、お願いです……… ホントもう、無理なん、ですけど………」
呼吸もままならない状態でへたり込み、縋る様にルリーダの脚を引っ掴む。
すると、声を掛けられた女教師はしゃがみ込んで小城と目線を合わせ、その頬を撫で、
落ち着くのを待ってやった。その優しげな様子に、一瞬彼の目に期待の光が灯る。
「先せ……」
「まだ終わってないだろう?……… さ、もう一回」
「!……… っは、そ…… ん、なっ!」
しかし、肝心の必死の想いを込めた哀訴は、無情にも却下された。

再び彼女の手の中に握られたソレは、彼女の意のままに扱われ、膨張してびくびくと震えている。
「今日は特に気持ちいいだろう?」
「や…… もう、分かりません…… 気絶したい」
裸でいるにも関わらず、身体中がとても熱い。完全に集中力が切れた今、
ぐったりと弛緩し虚ろな目で中空を眺めながら、流れに身を任せるしか無かった。
「何を言ってる。するべき事なら分かっているな?小城」
「う…… あ、それは、分かってます……」
結局、この教師に逆らう事は出来ない。


「…… はあっ、はあっ、……… っはあっ、………… っあ」
(ありえねえ……… っ!!)
荒い息をつきながら、それでもやめるにやめられなくて必死で動く。
女教師の命じるままに、オレはひたすら行為を続けていた。
「そ……… 暴れ…… な………! 落ちつ… て、… 余分な…… 力… 抜くん………」
平坦でストイックな声音が却って扇情的だが、その台詞も途切れ途切れにしか聞こえない。
落ち着け、なんて到底無理な話だ。まともな思考は殆ど働かなくなっており、
早く解放されて楽になりたい、その一心で身体を打ちつけた。
水音を立てる程激しく、こうやって自身を中で往復させるのも何度目か。

「ホラ、まだ達してないぞ。全く、だらしのない奴だな」
「そん… な……… 体力、残ってないで、す」
やっとの思いで身体を引き、ずるずると這う様にして離れるが、
付近の壁にもたれかかろうとすると、すかさず叱責が飛んだ。
(時間も回数も異常だろ……!早く、解放してくれよ……!)
かなり頑張ってるのに、あんたが全く容赦ないのは、オレが駄目すぎって事ですか。

始まってしまえば気持ちイイから、とか何とか言われたけれど、
そんなの嘘だ。……… いや、確かに最初こそ気持ち良くはあったけれど、
ここまでくれば最早拷問にしかならない。
この教師が相手ではつら過ぎる、精も根も尽き果てそうだ。
ああ、何でオレだけこんな事になってんだろ。

「……… っぐ………… ッ!!」
――― と、気まぐれに、ルリーダが先程から弄んでいたモノを両手で掴み直す。
思ったよりも強い刺激に、思わず小城の口から声が漏れた。
少しばかり濡れていたそれは、彼女の指に扱かれてびくり、と跳ねる。
先端を軽く掴まれて、たらたらと薄く零れた液が、ルリーダの白い手を伝い濡らしていく。
「ん? これでは刺激が足りんか」
「ちょっ…… な、…… うあ、やめて下さいよ!」


一旦静まったと気を抜いた瞬間、小城は寒気と共に、痺れる様な新たな衝撃に襲われた。
きゅ、と一段と強く握り込まれる。更に親指と人差し指で先端をつまみ上げるようにして、
反応を試す様に何度も擦り上げられた。
「痛って!……… そんな、強くすっ、しないで下さいって!」
無造作なルリーダの攻め様は、それでも確実に小城に刺激を与えてゆく。
「だ… っ、やめ………!うわあああ!」
「何……… わっ!?」

ぐいと指の腹で押された瞬間、不意に勢い良く液体が飛び散った。
暴発したそれに対応しきれず、ルリーダの手や顔にも飛沫がかかる。
「やれやれ、加減を誤ったか。何をやってるんだ、小城」
「…… いや…… 先生がっ、悪いんでしょーが!」
思わず目を瞑っていたのだが、咎められて視界を復活させる。
慌てて離れ、ルリーダから数メートルもの距離を取って叫んだ。

「まあ、今のは確かに私が悪いな。……… だが、私がこうしているのはそもそも、お前が原因だぞ。
 今学期の出席率はどの程度だ?明らかに足りてないだろう」
「…… それは、その」
「だから、これは授業をサボり過ぎたバツだ」
「……」
先程耐えきれずに放ったモノは、また張りつめて真っすぐに立ち直り、その先端をじんわりと滲ませていた。
女教師と二人きり。逃げるにも逃げられない。この状況――― もう、限界だ。
「いや、もう…… すみませんでした!ホント反省してます!…… だから早く……

いかせて下さい!もう無理なんです!」
「じゃあ、早い所、始めようか?」

「はいっ!?…… あの、それはホントに……… そんな」
「だから、さっきも本当だと言っただろう? ほら、早く……」
あっさりととんでもない事を言い放つと、ルリーダはそこを人差し指と中指で掬い、
「ここへ」
誘導する様に、更にその指を中へと沈めて掻き回した。
「え、え、先生……」
(マジで言ってんのかよ……!)
信じられない展開に、ぎくしゃくとしながら後ろに下がる。逆らう気は毛頭無いけれど、でも。
思わず目を背けたけれど、ぴちゃぴちゃと小さな水音が絶え間なく聴覚に侵入し

てくるので、現実から逃れる術にはならなかった。

「……」
ちゅ、と濡れた指を引き抜くと、ルリーダは小首をかしげ、
目の前で固まった男子生徒が次のリアクションを取るまで、じっと見つめていた。
「あ、あの、それはさすがに無理っス……!」
「ん?…… 今更何を言ってるんだ。その格好、もう準備万端じゃないか」
「え……… や、まあ…………」
口では拒絶しているのに、ゴム製のそれをしっかと手に持っている事を指摘されて、小城が耳まで赤くなる。
最初こそ小生意気な感じがしたものの、何だかんだ言って、彼は素直な生徒なのだ。
「早く着けろ」
「…… はい………… あれ? えーと……」
「…… 手伝ってやろうか?」
「いいっすよ別に!」
慌てて用意する小城を微笑ましく思い、ルリーダはふっと目を細めた。
たまにはこんな「個人授業」も、悪くない。


(…… ちくしょー!何でこんな時に……!)
あールリーダ先生に保健体育習いてー!とか言ってた奴らからすれば、これだけ構ってもらえたら御の字なんだろうけど。
今、眼前で微笑みを浮かべて自分を呼んでいる彼女の姿は、どうみても、美しい女神の仮面を被った死神だ。
「来い、小城。折角の機会に…… 教えてやるから」
濡れた手が差し伸べられた。落ち着いた中に熱さを秘めた声が、じわり、絡めとる様に小城を誘う。
「…… 分かりましたよ」
観念した小城はルリーダの元へ歩み寄ると、ゆっくりとその身を沈め、委ねていった。
そして冒頭、言われるがまま、気が遠くなるまで行為を繰り返す事となってしまったのだ。


「はあっ、はっ…… つ…… 疲れた」
「ホラ、それ位でへこたれてどうする!まだまだ終わらんぞ!」

焦がす様に照りつける太陽の下、バシャバシャと涼しげな水の音が響き渡る。
「あと背泳ぎとバタフライが残ってるだろう?合わせて残り50メートル×100本!」
「っだーーもーーマジ無理、です!……うわーーーん真白木さああああん!
 オレも早く真白木さんの所に行きたいのにィィーーー!」
「何を言ってる、今日逃げた二人はこの倍だ。むしろ、これだけで済んだ事を喜ぶといい」
(全く喜べねえっ!!)

35度を越える真夏日である。通常授業も終え、世間はすっかり夏休み、そんなある日の午後1時。
水泳帽とゴーグルをむしり取って水面に叩き付けた小城は、プールの中で涙ながらに絶叫していた。
「ははは、小城、自業自得だぞ」
その様子を、仁王立ちで見守る体育教師、ルリーダ。
あまりの暑さのせいなのか、普段ジャージの彼女もタンクトップにホットパンツの完全夏仕様。
なかなか見る事の無い露出の高い姿に、普通ならば男子生徒は手を叩いて喜ぶべき所だが、
今の小城には本気でどうでも良かった。

「あ〜〜〜… あ、またゴーグルの紐伸びた」
「貸せ、調節してやるから。だから手伝ってやるって言ったじゃないか」
「先生は引きちぎりそうだから遠慮します!……あーもー何でオレだけ……!帽子もこれもダッセーし………… ぶっ!」
「投げるな!疲れにくく無駄のない泳法、その身に刻め……!身体で覚えるんだ!」
「ごめんなさいわかりまし… 冷たッ!わかったから水掛けないで下さいよ!…… っ、わ、やめ、あっ!!
 …… いてえ! ホースから直とか痛いんスから!」

ルリーダが手に持っているのは青いゴムホース。先端をぎゅっとつまんで出口を絞れば、
水圧は増して水鉄砲の如く強力になり、中で暴れる水流に翻弄されたホースはせわしなく跳ね回る。
思いっきり流水を当てられる度に、小城の肌にはくすぐったさ3割、痛さ7割の冷たい刺激が走った。
「ほら、早くしないと終わらなくなるぞ!」
こっちに向かって水を掛けてくるルリーダは水遊びをする子供みたいに何だか楽しそうで、
小城が反抗していようがいまいが、時折思い出した様にホースの口を向ける。
くっそー、絶対面白がってるだろこのセンセ。

ホースの水圧攻撃から逃げる様に、小城はプールに身を沈めた。
水面に半分だけ顔を出して、ジト目で水面に映る自らを見つめ、拗ねた様にもごもごする。
(どうしてオレを縛り付けたりしたんだ………柴め!)
一緒に同じ目に遭うはずだった友人を思い浮かべ、ギリ、と思わず歯噛みした。


「めんどくせー……… いつごろ終わるんだろうな」
「まあまあ、いいじゃん柴。補習なんてさ、適当に水遊びして終わりだろ」
夏休み中に体育の補習を、と言い渡されたのは、真白木と柴と小城、いつもの三人組。
真白木より先に着替えを済ませていた二人は、更衣室の中で愚痴っていた。
とは言っても、暑いし水に入れば気持ちいいし。まあ丁度いいかと、それなりに納得していたのだが。

バタン!
「!?…… 真白木さん!遅かったじゃないですか!」
「それどころじゃねえ!」
大変興奮した様子で、二人にとってのボス・真白木宇月が扉を開けて入ってきた。
彼はぽかんとしている子分に向かって、鼻息荒くまくしたてる。
「おい!お前ら!今日は白いスーツでミラーボールでもてデー記念にフィーバーらしいぞ!」
「真白木さん!わかりません!」

「す、すまん!慌て過ぎてまとまらなかった!もう一度言うっ!
 俺はたった今、聞いてしまったんだ……… 今日これから、
 太臓もて王サーガ・一周年記念の表紙撮影があるという事をーーッッ!!!」
『えーーーーーッ!?』
先輩の口から出た思ってもみない言葉に、二人のボルテージも一気に上がったのだった。

「し、知らなかった………!不覚でした!」
「ああ、そんな記念すべきこの日に、補習などやっている場合ではない。行くぞお前ら!」
『ハイ!真白木さん!!』
授業と一周年記念、重要度は比べるまでもない。
でかでかと『祝』の文字がプリントされたTシャツを着てはしゃぐ真白木を見れば尚更だ。
既に帰る気満々の彼に倣い、二人も即刻帰り支度を始めた。

「しまったーあああ!Tシャツも良いけど、お、俺もやっぱスーツだよな!イイカッコしなきゃな!!」
「そうですね真白木さん!ここはビシッと決めて、佐渡に会いにいきましょう!」
「だよな!だよな!あああいすちゃんとチュ、チューショットなんか……… いやツーショットなんか撮れたりして!」

「それいいと思います!…… あ、オレら後から行きますんで、先に行ってて下さい!」
「おう!待ってるぜ!じゃあまた後でな!…… 漢・真白木、今、逢いに行きます!いや、愛に生きます!!」
「………」
嵐の様な真白木が去り、更衣室は再び柴と小城の二人だけになった。
「――― さ、俺らも急ぐか」
「ああ………」
(な、何でオレらしか居ない所でもカモフラージュを……
 柴も気付かねーし…… 正直に阿久津が好きだって、言ってくれれば良いのに)
先程の会話を反芻しながら、小城はYシャツのボタンを留めていた。
照れ屋で本心の言えないボスと、そんなボスの本心に全く気付く気配のない友人。
表面には見えて来ない微妙なすれ違いっぷりを、もどかしく思う。
まったく苦労するぜ。心の中だけで呆れた表情を作ると、小城は一つ、小さな溜め息をついた。

ところが、その瞬間――― 後ろに、不穏な気配を感じた。振り返るより先に、首に衝撃が走る。
「許せ、小城!」
「え………… ッ、ぐあっ!!」
突然、視界が暗転した。覚えているのは、そこまでだ。

次に目を覚ました時には誰も居なくて、身体をよく分からない複雑な縛り上げ方で拘束されていた。
そのまま暴れる事数分、良い事なのか悪い事なのか、様子を見に来たルリーダに発見されたのだが。

「小城!どうしたんだその格好は!?」
「せ、せんせーーー!助けて下さい!」
「待ってろ、今自由にしてやるからな」
「はい……… って、刃物!?ぎゃー先生ちょっと待って怖い痛い怖い!」
「痛くも怖くも無いさ。心配するな、扱い慣れてる……… 動くなよ」
「慣れてんのかよ!何で!?」

美人女性教師の手で体中の縄をほどいてもらう、という状況に若干期待してみたのに、
当然の様に懐から取り出されたのは、なんと槍の様な形状の刃物。
ルリーダは、怯える小城を優しくなだめ……… 正しくはなだめきる前に、
構わず鋭い一刀が入れられ、縄はばらばらに切り裂かれ、彼は一瞬にして自由の身となり
そして――― 今のスパルタ補習授業を受けさせられている。

(ルリーダはルリーダで、あの状態だったオレにすぐ泳げとか言うし…… どいつもこいつもヒドい奴)
鬼教師と裏切った友人に心の中で怒りをぶつけるが、水面から目だけ出ている状態で何か言った所で、
ぶくぶくと泡が立ち上るばかり。
悔し涙を浮かべながらの彼の呟きは、誰にも伝わる事は無かった。


青々とした広葉樹の葉が、本格的な夏を告げている。素足で立てば足裏ごと灼かれそうなグラウンドには、
正に高校選抜まっただ中の野球部を始め、練習を続ける運動部の掛け声と、
コンクールを控えるブラスバンド部の音楽、やかましいくらいのセミの鳴き声、
それらが同時に響いて、独特の空気を作り出していた。

その中で一人、校庭の隅を、制服のまま俯き加減で突っ切る生徒が居た。
走るのに邪魔なのか、肩かけ鞄を更に小脇に抱えている。
彼はいかにも暑さで辛そうにしていたが……ふと立ち止まって、空を仰いだ。
リーゼント、というよりはふわふわとした雲みたいな髪を、微かな風が揺らす。
手で乱暴に汗を拭うと、ドサリと荷物を地面に落とし、彼は独り言を呟いた。

「小城……… お前には、悪い事をしたと思ってる」
空に点描で描かれた枠が発生し、その中に笑顔の小城が映し出されると、その幻影に向かって柴は懺悔した。
今見えている小城は無邪気に笑っているけれど、最近、彼は時々もの憂げな表情をする様になったと思う。
原因はおそらく――― 佐渡。
「………… っ」

――― は… は… はは……!!こっそり隠れて様子を見ててよかったぜ!はははは……!!
確かに自分は、至らないながら、先輩と友人の恋を応援しようと思っていた。いや、今だって思っている。
しかし、あの七夕の時の勝ち誇った様な――― 暗い笑いを浮かべたあいつの表情が、未だに忘れられない。
(真白木さん……… 佐渡……… そして小城…………)

柴は悩んでいた。自分が慕う真白木と友人の小城が、揃いも揃って
「あの」氷の微笑女・佐渡あいすに惚れ込んでいる事を知ってしまってから。
照れ屋で恋に不器用なボスと、そんなボスの恋心に全く遠慮のない友人。
表面には見えて来ない微妙なすれ違いっぷりを、もどかしく思う。
「一周年、なんだ」
言い訳する様に、ぽつりと呟く。
「ツーショット、撮りたいって言ったから」

「二人とも佐渡と一緒に写真撮れなかったのならまだいいけど、その場にいるのにどっちかだけ撮れたりしたら、
 撮れなかった方が悲しむだろうし…… またあいつ、邪魔するかもしれないし」
去年の今頃は、まさか自分が忠誠心と友情の間で板挟みになるなんて思いも

しなかった。
そしてそれらを犠牲にして尚、望み薄な恋だという事にも胸が痛んだ。
今日の事だって、正しいとは思っちゃいない。
只、本当にどう振る舞うべきかが分からなくて、とっさにやってしまったのだ。
(俺達は一体、どうなっちまうんだろう。…… 俺は、どうしたらいいんだ?)

過ぎた事は仕方が無い、問題はそれをどう修復するかだ。しかし今の所、その術も良く分からない。
数瞬の逡巡の後――― 柴はぐ、と拳を握りしめ、決意の目と共に、空に向かって宣言した。
(すまん、小城………!オマエは俺の大事な友人だし、俺はどっちも応援してるが、)

「一周年記念くらいは、真白木さんに花を持たせてやりたいんだ……!!」


今日使われるはずだった水泳道具を肩にかけ、柴は涙のダッシュで校庭を駆け抜けた。

 




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