木嶋×吉下
2006/05/09(火) 23:48:43 ID:8XLqAMZ3



休日と言えど、侮れない。

昼も半ば、今日も今日とて、校舎は騒がしい。
「キャーッ!キジPセンパーイ!!まさか日曜にセンパイに会えるなんて…☆
あーん、明日も絶対お会いしに行きますねー!!」
「コラー!!全っ然反省してないし!!ミーティングサボってどこで遊んでるのかと思えば…!
お前は明日放課後、日焼け止め無しでグラウンド100周!究極にダサイ靴下焼けしろ!
紫外線浴びるだけ浴びて20年後に己を悔いろ!」
「先生、明日の天気予報は午後から雨です」
「うるせー!」


昼も半ば、今日も今日とて、校舎は騒がしい。
顧問に首根っ子を引っ掴まれて尚、ハートマークを飛ばし続ける
バスケ部マネージャーが引き摺られていく姿を、生徒会室入り口から、生暖かい目線と共に見送った。
「……」
(うん、終わった。静かになったし、早く生徒会便りの原稿書いちゃおう。…あ、
その前にお手洗い行こうかな。帰りついでに自販機でジュース買って来よう、よし決めた)
珍しくも無い光景。特に感慨もない。
2人の姿が見えなくなった所で、吉下は持ったままだったドアの端を引いた。
―――――しかし無言で閉めようとしたその瞬間、
「やれやれ、もて過ぎるというのも考えものだな…」

先程飛んでいたハートマークの終着点。部屋の外でカッコ付けていた男が、
漫然と勝者の笑みを湛え、独り言を装って話し掛けてきた。
誰も聞いていないというのに、自分のモテっぷりについて語りはじめる。
それすらもいつもの事なので別に構わないのだけれど、それよりもこの男は、
自分よりも早く仕事を終えて、先に帰ったのではなかったか?

「いやー全く、寂しがり屋の仔猫ちゃん達には困ったものだ。部活を蹴ってまで
俺に逢いに来たいなんて、気持ちは嬉しいが…こちらにも立場というものがあるというのに」
「仕事終わったなら帰ったら。何で居るの?」


背後に何か良く分からないオーラを感じたけれど、多分無我の境地か何かかな、と思ったので、
吉下は気にせず生徒会室を後にした。


………………………………………………………………………

(…ぬおおおおっ!)
静かな生徒会室に、頭を抱えて悔しがる男子約一名。
「くそ…相変わらず木嶋ゾーンが通用しない…!早くスカウターを修理しろ吉下!」
彼の名は木嶋剣。生徒会副会長にして、もてもて審査委員会公認のもて四天王の一人である。
文武両道、眉目秀麗という最強の条件を兼ね備えている故、言い寄る女性は後を絶たず。
歩いているだけで女性を引き付けられるのが特技だと言わしめる程の、正に学園アイドルだ。
無論当人が一番それを自覚しており、女生徒を喜ばせる為の、それなりの振る舞いを欠かさない。
(吉下っ…)
ところが、その「それなりの振る舞い」が一切通用しない昔なじみ一人に、彼は四苦八苦していた。

「のれんに腕押し」まさに、この表現がぴったりくる。
押しても駄目なら引いてみろとばかりに他の女生徒との仲を見せ付けてみても、
紙より薄いリアクションしか帰ってこない。最近、彼女が「冷たい」のではなく、
「興味の無い」瞳をしている事にやっと気付いた。驚愕の事実である。
自分の存在を目も合わさず切り捨てる吉下の存在は、既に落とす落とさないの問題では無く―
そもそも、女性は落とすものでなく、落ちてくるものだと思っている―もて四天王としての
尊厳維持に、大いに関わるのだった。
(…どうにも気に食わん奴だ。女なら、もう少しこう………惚けろとは言わんが、せめてこっち見ろ。)
他に熱を上げる人や物がある人間ならともかく、吉下は。
意中の相手の存在など本人からは窺い知れないし、特に浮いた話も耳にしない。
しかし、もしやフリーだと踏んでいる事自体が間違いか。

「…まさか…」
ふと、記憶の底に封印していたバレンタインデーの出来事が頭をよぎる。
義理には興味無いと一蹴したあの女が、チョコを手渡していた相手は…


(―――…ありえんッ!!)
オニギリ頭の二頭身変態を窓からはたき落とすイメージをしつつ、
バン、と派手な音を立てて机を叩きながら立ち上がる。我ながら馬鹿な考えに行き当たったものだ。
どんな細工をしたのか知らないが、確かに、あの変態軍団との勝負には敗北を期した。
かといって、自分があれより魅力が無いとは到底思えない。
この間、風にのって聞こえてきた「俺を変態に含めるなー!!!」という阿久津の声は、無視した。

しかし………吉下が太臓にチョコを渡す瞬間は、自分の目でしかと見てしまっている。


「…茶でも入れ直すか」
ひとりごちて、窓の外を見る。空は日が傾き始めているせいで、教室に入る西日が却ってきつい。
「…」
シャッ。
眩しさが気に障った事も手伝って、八つ当たりついでに力一杯カーテンを閉める。
沸き上がった不快感から逃れるべく、木嶋は考える事を放棄した。


………………………………………………………………………

パックのオレンジジュースをくわえながら生徒会室に戻ると、木嶋が定位置の椅子に座っていた。
「あら、まだ居たの」
「悪いのか」
「え? いや、別に。どうぞ」
「ああそうか、俺と二人きりだからといって緊張する事は無いぞ。ちなみにカーテンが閉めてあるのは
日差しが熱かったからであって、特に他意は無いからな」
「それならエアコンある家に帰ればいいのに。暇なのね」

「…」

向こうが思いつきで物を言うので、こちらも適当に返す。
程よく距離を置いた、しかし気兼ね無い昔馴染み。木嶋と吉下の関係は、常にこうだ。
普通のファンの女子ならば、木嶋を「見上げる」立場にしか立てない。
しかし旧知の友人というポジションは、木嶋と対等、時に自分の方が有利に立つ事もある。
その分、他の女生徒とは違うという、ほのかな自尊心が彼女には有った。

だから、彼女は今の状態に満足していた。


確かにちょっと暑いなあ、と思ってブレザーを椅子にかけ…
ふと、去年の資料が見たくなって席を立つ。
そうだ、暇ならば午前中に作った資料の推敲でもしてもらおうか。
さっきから黙っているだけの木嶋が謎だったが、ここに居たい意志は伝わってきたので、
吉下は本棚を漁りながら声をかけた。

「ま、好きにしたら?」


………………………………………………………………………

―それならエアコンある家に帰ればいいのに。暇なのね。
(………っっっ!!!)
また流された。額に青筋を浮かべながら、それでも気にしない振りで紅茶を啜る。
熱いのにホットティーを飲んでいる時点で不審だが、幸いにも2段ツッコミは入らなかった。

確かにこちらも思いつきで軽口を言うが、幾ら何でも適当に返し過ぎだ、吉下。
程よく距離を置いた、しかし気兼ね無い昔馴染み。吉下と木嶋の関係は、常にこうだ。
普通のファンの女子相手では、優しくあしらってやれば良い分、一枚猫を被る必要がある。
しかし旧知の友人というポジションは、女子と対等………往々にして言いくるめられたりもする、が。
その分、例え素で接しても相手の態度は変わらないので、気楽なつながりではあった。

しかし、彼は今の状態に満足していなかった。


(またこちらを見向きもしない)
見れば、さっさと自分の席に戻り、原稿の下書きをしている。
太臓達とはまともに向かい合って会話するというのに、俺は半無視か?
(この女…いやもう女なのはこの際関係ない。いつか一泡吹かせてやる)
既にいじめっ子の心理状態となった木嶋が悶々としている中、
彼女はかたり、と音を立てて椅子から立ち上がると、教室隅の書類棚へ向かった。

苛ついたまま、相変わらず自分に背を向けている吉下を眺める。
微妙に高い位置にあるファイルを背伸びしながら取り出している。スカートが軽く揺れた。

西日がカーテンの隙間から零れる。日が落ちた瞬間一気にやってくる、逢魔ケ時の前座か。
沈む直前の酷く鮮やかなオレンジ色に、時が止まった様な感覚を引き起こされ、一瞬気が遠くなる。
ぼうっとした頭は、あらぬ所へ思考を引っ張られていた。
(いっそ1時間位、無理にでも向かい合ってやろうか、吉下?)


「ま、好きにしたら?」

何の気なしに言ったそれが引き金になった事など、彼女が知るはずも無い。


………………………………………………………………………

「ああ、あった。去年のやつ」
目当てのファイルを探し当て、吉下が言う。
背を向けていた彼女は、木嶋の目に険呑な光が宿った事にも気付かず、話を切り替えた。
「それよりテーブルの上の総会資料だけど。会計報告の部費の欄ね、野球部から訂正が入ったから、
直しておいたわよ。で、あとは会報の原稿と、あと」
「…吉下」

すぐ真後ろから嫌に低い声を投げ掛けられて、吉下は眉をひそめた。
名を呼ばれた、たったそれだけの事だったが、猛烈に違和感を覚える。
何があったかと思わず振り返れば………自分を遮った相手は、存外近くに、居た。
「…何」
目の前に木嶋の襟元しか見えないこの至近距離は、どう考えても会話に不適切だ。
思わずファイルを両手て抱きかかえ、言い知れぬ威圧感に肩をすくめる。
(この人、さっきからなにやってんの…))
内心かなり驚いたけれど、それを悟られるのも何となく癪だったので、
ひとまず普通に答えつつ、半ば無意識に一歩退こうとした。
…………………が。
ガン!
「!?」
下げた右足が棚にぶち当たる事で、今置かれている状況を思い出す。そういえば、すぐ後ろには書棚。
(えーと、)
そして目の前には木嶋。

―――――挟まれた。
そう気付いたのと、伸びてきた手に両手首を掴まれたのは、ほぼ同時だった。


………………………………………………………………………

ファイルが派手な音を立てて落ち、中の藁半紙が床を滑った。
「はっ?…ちょっと…!?」
頓狂な声音で抗議する様は、こちらの心情を何も把握していない証拠だ。
軽く溜め息を付きながら、足下に残るバインダーを靴の横で軽く蹴り飛ばす。
(―呑気なものだ)
華奢な手首は握ったままに、更に半歩、距離を詰める。彼女の内股に自分の右脚を入れて軽く引っ掛けると、
細い身体はいとも簡単によろけた。転ぶまいと彼女が身を捻った瞬間にその背中へと片手を回し、
続いて自分の身体ごと横の壁に押しつけた。
「…っ…痛あっ!」
余裕の無い高い叫び声も意に介さず、壁に縫い止めるように身体で挟み込む。

「う…何…」
絞り出す様な声が耳に届く。
苦しいのならとっとと顔を上げれば良いものを、吉下は可能な限り身を縮め、木嶋に触れる面積を減らそうとしていた。
膝を曲げて足の裏を支えに力を込め、残る頭と肩を使って必死に押し返そうとする。
(おのれ…!)
この後に及んで尚も顔を背ける様子に苛ついたので、片手で顎をぐいと持ち上げて固定し、
「目を背けるな」
無理矢理視線を合わせてやった。
驚愕に見開かれた眼が瞬きもせずこちらを見ている事実に、言い知れぬ優越感が心を満たしていく。
「!」
次いで、ぞくりと沸き上がる嗜虐心。


「人と会話するときは目を見て話せ、と教わらなかったのか?」

びくっ、とした後完全に動きを止めた吉下に諭す様な笑みを投げかけ、囁く。


「逃げるなよ?」


微かに震え出した唇を一舐めすると、ようやく何をされたか理解した吉下の頬がかっと上気する。
(今更、気付いても遅い)
「きっ…………んっ!」
悲鳴を上げようとするのを見越して、間髪入れずに舌を差し入れた。


日が、落ちる。


………………………………………………………………………

(ちょっと待って。何かした!?何かした!?ねえ私何かしたの!?)
吉下は混乱していた。彼女だって、校名からして惚気ている高校の一生徒だ。
恋愛沙汰や、それに付随するなんつーかアレな事に興味が無いわけではない。
しかしそれにしたって木嶋君はない。これは無い。

昔から、彼のモテる故の余裕も、女生徒の扱いの丁寧さもずっと見てきている。
だからこそ、無理に女に迫るなど間違っても無いと思っていたし―というか、そもそも考えた事も無かった。
…ましてや、取り巻きの生徒よりも地味な幼馴染みになど。
だから、そういう意味では友人として、無言の信頼を置いていたのに。

長年信じてきたそれらの前提が全て、一瞬で突き崩された。

木嶋は奥へ逃げる舌を捉えて絡ませ、唇をはむ。生暖かい舌が吉下の口腔を這い回る。
貪る様に、何度も口付けた。吉下は驚いて抵抗するが、がっちりと固定された頭は動かず、強引にされるがままだ。
「!…はあっ…やっ……苦し…っ!」

「…何だ、鼻から息を吸えば良いだろうが」
数分の後ようやっと解放されて、荒い息をつく。酸欠で頭痛のする頭に、無神経な低音が響く。
(いや…そういう問題じゃないわよ)

自らの意志に反して、身体がかたかたと震えている。変わらないトーンで喋る木嶋がまた気味悪い。
さっきの不自然な笑みが死ぬ程怖かった。眼が全く笑っていなかった。
また、逃げるべく引っ掻いたりしようとする素振りをすれば、途端に掴まれている手首にギリ、と力がこもる。
これは…もしかしてもの凄く怒っている様な気がするのだが、原因が特に思いつかないでいた。
この状態では、多分闇雲に謝った所で更に怒る気がする。
かといって、バカ正直に理由を聞いたら最後、確実にブチ切れる。そういう人だ。
(…どうしろってのよ――――!)

吉下の心情をよそに、長い指が身体の輪郭をなぞるように動く。
先程から頭を抱え込まれている。襟のリボンが抜き取られ、そこから侵入した唇が吸い付き、首元に赤い痕を作っていた。
「…ん…っふっ…んんうっ…!」
焦っても身体は全く動いてくれないし、せめてもの意地で声を押し殺せば喉が痛いし、どうしたら良いか全く分からない。
…と、突然、ぐっと抱きすくめられた。視界が開け、木嶋の肩口から先程まで作業していた机が見える。
「!?」
今度は何をされるかと身を固くすれば、腰元を撫ぜていた右手がシャツの内側へと潜り込んだ。
ブラジャーのホックがものの数秒で外される。そのまま大きな掌が背中から脇へ、そして胸へと移動してくる。
「やっっ…木嶋君あの…っ!」
「無駄だ」
「一蹴!? ………触んないでっ、嫌!やだってば!…ひゃあっ!…ッ!」

胸に張り付いた掌が、節くれだった指が、神経を伝う様にじっくりと掴んでは揉んでいく。
身体がびくびくと勝手に痙攣するばかりで、力が入らない。
それを良い事に木嶋は次にシャツのボタンを外し、胸元を大きくはだけさせた。
片手は吉下の胸を揉んだまま、今度はもう一方の膨らみに唇を滑らせる。
「な…きゃあああ!」
先端をちゅ、と甘く噛まれて、思わず声を上げる。
反射的にのけぞった拍子に張りのある胸がふるっ、と揺れた。意に反して腰も揺らめく。
もう無理、恥ずかし過ぎる。
段々と激しくなる手と舌の動きになすがままになってしまい、せめてもの抵抗にぎう、と目をつぶる。
耳を噛まれた時に聞こえた木嶋の呼吸が、予想以上に荒い事にぞっとした。

木嶋ファンクラブが思い描く、妄想の木嶋もこんな感じなのだろうか。
いや、もっと異国の王子の様な優雅さでお姫様だっこでダブルベッドにエスコート、とかそんなんだろう。
それはそれでキモい、だがこれも怖い。
(会員の女子の皆様、シチュエーションさえ問わない様なら代われ私と!今すぐに!)
底知れぬ恐怖と恥ずかしさからとにかく抜け出したくて、出来る筈も無いテレパシーを必死に送った。

頭もいっそ惚けてしまえば楽かもしれない。認めたく無いけれど確実に快楽に蝕まれて行く中で、ふとそんな事を思った。


………………………………………………………………………

予想外だった。
詰め寄った直後は、ちょっと困らせてやるだけのつもりだったし、
本気で泣き出しでもしたら冗談を装ってやめようと思っていた。
そして、いつもの様に痛烈な一言を言われて、運が悪くば殴られて終了。そのつもりだった。
ところがどうだ。嬲られてるにも関わらず、必死に耐えながらまともに会話しようとする所とか、
思ったより感度が良かったとか聞いた事も無い可愛い声とか反則だろ、お前。

正直、自主的に止められる自信はもう無い。

大人しくなってしまえば、赴くままにおそらく気の済むまで弄ぶだろうし、
かといって抵抗されれば、それはそれで寧ろ燃えるというか何というか。

(…どうしろと…)

「ふぁ…あんっ…!」
両胸を良い様に嬲られた吉下が、切なげに一鳴きした。
ボタンが全て外れたシャツが肘の所で止まっているのは、何も着ていないよりも却って扇情的だ。
何をしても沸き上がる快楽。既に思考と半ば乖離した所で、身体が勝手に動いていた。
熱を持った下肢を彼女の秘部に押し付けるようにして抱えると、片足を持ち上げて白い太腿を撫でる。
「っは…っ!あ…」
しっとりとした柔らかな感触に、どうしようもない疼きが走った。入れてしまいたい衝動を堪えたのは、もう何度目だろうか。

(―――しかしだな。)
学校で事に及ぶなど考えもしなかった為、避妊具などは持ち合わせていない。
副会長とモテ四天王、どちらの立場としてもスキャンダルは大打撃だ。どうするかと逡巡していたその時、
「お願い、おねがいだからもうやめて…!離してよ…!…っ!」
ぐったりとなっていた彼女が、潤んだ目で自分を見つめて懇願してきたのだった。
「…!」

思わず、自分でも口元が緩むのが分かった。期せずして加虐的な笑みが浮かぶ。
木嶋の変化を目の当たりにして、吉下がしまった、という顔をした。逆効果だったという事に気付いたらしい。
「くっ…」
もうこうなると収まらない。抱きしめて、必死で笑いを咬み殺した。……お願い離して、だと。
(―――普通に無理だ。この状況でこれ見て引ける奴の気が知れん)

「もう嫌よ…嫌!…ゃあ!」
今迄以上に性急な動きで、全身を犯していく。執拗に愛撫を繰り返す。
そして下着を引き下ろすと、今まで敢えて直接触れなかった、
彼女の敏感になった部分を割れ目に沿ってゆっくりと、なぞった。
「ひゃ、あ…やああん!んっ…!」
快感に身悶える吉下のそこから、とろりと蜜が溢れ出す。なんだかんだと言って、
彼女が自分に翻弄されている事を実感する瞬間が堪らない。
背中から這い上がる様な快楽が欲しくて、声が聞きたくてぐいと指を差し向ける。手のひら全体で抑えたり、
中指だけでぐりぐりと押し込んだり、円を描く様に擦ったり。
その度に、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響き渡り、掬いきれない愛液がつう、と木嶋の指に絡まった。
「やあああっ!ひゃっ……もうやめて!や…ッん………」
耐えきれず喘ぐ様がまた、可愛くて仕方が無い。頬を伝う涙を舌で拭って、一瞬だけ優しく宥めた後、
直ぐにまた集中的に責め出す。先程の件で、懇願されてもやめる気など無い事は分かっている筈なのに、
弱々しいお願い、やめて、という声が途切れ途切れに聞こえた。
その声も酷く甘いもので、正直、誘っている様にしか聞こえない。

吉下が何かから逃れる様に首を振った瞬間、眼鏡がずり落ちる。
最早遠くを見る必要性など感じられないので、黙って取ってしまう事にした。

しかしフレームに指をかけた瞬間、ふいに彼女の眼に意志の光が灯る。
「あっ…眼鏡…!ちょっと何も見えないじゃない…っ!」

「……は…?どうせ故障中だろう。別に構わん」
「構うわよ!ていうか故障って何!?返して、放り投げたりしたら承知しないから!」
(―――全く持って訳が分からん、この女。)
この状況下において尚刃向かう吉下に、木嶋は本日何度目かの溜め息をこぼした。


突然気丈に戻った吉下に弱干面食らいながら、それでも眼鏡は彼女の手に届かない所、先程の棚の上に置いた。
自分を束縛する力が減った所で逃げ出そうとした彼女だったが、2、3歩歩いた所でガクリとくずおれる。
「ひゃうっ!…え………何…で……!?」
眼鏡が外れたせいで、理知的な鋭さが多少抜け、代わりに一回り大きくなった瞳があどけない可愛らしさを強めていた。
へたり込んだまま、予想外だと言わんばかりにその瞳を涙で潤ませて、視線だけをせわしなく泳がせる。

当たり前だ。何の為に時間をかけたと思っている。

しかし自分にここまでさせておいて、まだ自制心があるとはどういう事だ。こっちは既に限界だというのに。
己の女の扱いにちょっと自信が無くなりつつ、自虐的な考えで吉下に尋ねる。
「そんなに、俺が嫌か?」
都合の良い答えは絶対返って来ないと知りつつ、小さく肩を震わせて、驚いた様に自らをかき抱いている
吉下の所へ悠然と歩み寄る。いつも平然と自分の台詞を切り返すはずの彼女の姿に、余裕は見られない。

―――――折角、こちらを向いたんだ。もっと、もっと。色々な表情が欲しい。

腹が立ったから、という稚拙な当初の目的も理由もどこかに吹っ飛んでいた。
もっと正確に言うなれば…そんな目的も理由も全くの、嘘だった。


………………………………………………………………………

学校の完全無敵美形に目を付けられ、校内で無理矢理組み敷かれる。
(―――有り得ないでしょ!!)
おととい笑うネタのつもりで読んだ少女コミックのノリがそのままそっくりやってきて、
吉下の頭はツッコミを考えるのに必死だった。
危なかった。さっきの一件が無ければ、多分意識も飛んでいたに違いない。

力では全く敵わない。かといってこうなってしまっては、下手に助けが来てしまって見つかる方が大問題だ。
だから願わくば、この異常な雰囲気でもぶち壊して、彼が正気に戻ってくれれば。

吉下にとって気兼ねの無い男の友人は貴重な存在であるから、関係を手放すのは惜しいというのも
あるにはあるが…正直、自分が女として見られていたり、扱われていたりする今の状態に耐えられない。
彼が女性を侍らせているのは多分、生粋の女好きというよりは、自己のステータス誇示の為だ。
昔から思っていたが、女に苦労した事が無い分、木嶋は女性の事をどこか軽く見ている節がある。だからこそ。
(落ちるわけには、いかないのよ…!)

―――――貴方にとって、今日の私は何人目なんですか。
木嶋剣と寝た女その1、そんなつまらない称号を貰うのは死んでも嫌だ。
(…私がどれだけ居たたまれないかなんてわかってない、この人)

残った理性を総動員した吉下は、回らない頭でまだ、逃れる手を考えていた。
そして自分に投げかけられる声に半分震え、半分うんざりする。
「そんなに、俺が嫌か?」
(嫌じゃないけど嫌だっての!どう言ったら分かるかしら…「貴方とは友達で居たいの」とか?)
(いや駄目だ!なんか勘違いして勝手に振ってるっぽいし私のキャラじゃないし、今この格好で言っても説得力無いわ)
(そもそも何でこの人怒ってるんだっけ…?あー無理…頭全然働かない…口も回らない…駄目かもね)

「…触らないでよっ!…っうあ…や、いやぁ……」
後ろから再び抱き寄せられ、胸に股間に手が伸ばされて、そして繰り返される淫猥な行為。
どんどん敏感になっている気がする。大腿からつま先にかけてがぷるぷると震えだす。
蕾を直に刺激されて、吉下は快楽に身をよじる。
胸を弄ぶ木嶋のシャツ袖を指が白くなる程握りしめて、沸き上がる快感に必死で耐えていた。

二人の思惑はどこまでも方向を違えていた。
しかしそれに反して、熱くなる身体だけは唯一、揃ってお互いを欲していた。


………………………………………………………………………

二人の深い息づかいが暗い教室の空気に融けていた。寛げたズボンのベルトが重く邪魔で、
もどかしい手付きで引き抜いて床に放つ。カシャ、と軽い金属音が嫌に耳に響いた。
力の抜けた彼女の身体を半ば横抱きにして床に押し付け、脚の間に指を差し入れながら、秘核をこね回す。
「っふ…!も…いいでしょ…早く、帰っ…んな、きゃ、」
「やめたら却って困るぞ、この状態…」
「!…っうう!」
ちゅぷり、とわざと音を立ててそう告げてやると、吉下は歯を食いしばり悔しげに唸った。
指を関節の途中まで差し入れ、柔らかに纏わりつく内壁を探る様に撫でれば、動きに会わせて喘ぐ。
従順。見た目よりも数段、黙って従うという言葉の似合わない彼女が、完全にされるがままになっていた。
「っう…うあ…ん」
愛液でぬめる中はいかにも気持ち良さそうで、
一刻も早く繋がってぐちゃぐちゃにしてしまいたい気分だったが、
いかんせん、酷く狭い。圧迫感を感じるのだろう、吉下の声に多少苦しそうな色が混じる。
(相当きつそうだな…今日一日で全てこなすのは無理か。何日か指で慣らして、
多少広げた所で入れた方が吉下にも良さそうだ。
学校の床では節々にも精神的にも負担がかかるだろうし………そうだな、
明日は総会の準備だけやれば夕方は空くし、やはり邪魔の入らない俺の家にでも)
「…って」

―――――ん?

(おいおいおいおいおい………今俺は何を考えた)
数日間に渡る吉下開発計画を、至って真剣に3日目まで考えた所でようやくセルフツッコミが入った。
(一体どれだけ狂ってるんだーッ!)
彼女と呼ぶどころか、普段自分に興味すら持ってない女子相手に何をする気だったのか。
今は彼女の本能に訴えて抵抗出来ない様にしているだけであって、本人の意思とはほぼ無関係である。
これまでの、警戒心の薄い吉下なら一度位家に引っ張り込めたかもしれないが、
前科があっては確実に無理だろう。実際に実行したとすれば、どう良心的な解釈をしても犯罪行為だ。

真面目に考えたつもりの事が全てとんでもない妄想だった事態に気付き、愕然とした。
もしやあの太臓と同レベルではないのかこの発想は。
己のあまりのイタさに転げ回りたくなったが、それならばそれでと向き直る。
もうこんな機会は巡って来ないだろう。次が無いのならヤケだ。
あと少し。やれそうなことはやってしまえ。指を引き抜くと、自分も眼鏡を外した。――――今度は、口で。

「ひ…………いやああああぁっ!!!」
既に水分をたっぷりと含んだ部分に舌を押し当てて、じゅるっ、と一度吸い上げた。
腰をひねり逃げようとしている吉下の両脚を抑え、柔らかい秘肉の感触を確かめる様にして再び繰り返す。
指とはまた違う何か別の生き物の如く、にゅるにゅるとくすぐる刺激の連続に、
彼女の視界は弾け、頭が真っ白になった。

「っは……いまの…な…に」
「…いったか、それは結構。まあ相手が俺だ、当然の事だろう」
「……」
「続けるぞ」
特に冷たい一言も返って来ない様なので――木嶋はそこで終える事無く、ひくつく秘部に更に舌を進める。
花弁を割り広げて襞を丹念に舐めると、容赦無く今度はもっと奥、肉壁に舌を這わせた。
「はんっ………んっ…」
時折思い出した様に陰核に刺激を加えると、甘い悲鳴と共に新たな快楽の証が次々と溢れてくる。
必死に脚を閉じようとしているが、擦り合せた太腿が木嶋を挟んでしまっている矛盾に気付いているだろうか?
いつ終わるとも分からない様な長い愛撫に、彼女の身体は抵抗する力を失っていた。
「…も…やだ…っ!」
電撃が走ったようにびくりと跳ねて、吉下の身体にまた、快感が弾けた。


………………………………………………………………………

顔を上げた木嶋は、ゆっくりと身体を離し、上体を起こした。
惚けた姿で横たわる彼女の髪を優しく撫でて、ふと動きを止める。
自分の行為がここまで発展するとは思っていなかったので、満足感からか、心の中に選択肢が現れる。

→やめる
 すすむ

(…本番はまた次の機会にするか…っていや、次など無い様な気がするんだが、
痛みの無いここで止めておけば、吉下も女だ、それとなく誘えば少しは考え直すかもしれんし…
何より心象もそんなに悪くならないだろう。強引に進めてしまえば確実に痛みを伴うが、
…だーもういい、俺も限界だ、入れずとも擦り合せるだけで十分に達するだろうし)
まとまらない事をぼんやりと考えながら吉下の火照った身体を見下ろす。
(―――挿入せずに終えて、次に繋げるに賭ける)
そう決めると、吉下の上に覆いかぶさった。――の、だが。

猛った己を直接花弁に擦り付けた瞬間、そこから火のついたように全身に快感が広がり、そして悟った。
ああ、無理だ無理。

「え……ちょっ」
「終われるか馬鹿」

僅か3秒で心に前言撤回すると、いきり立った先端を無理に付き入れた。



―――――完全に快楽に飲み込まれていた身体が引き攣り、脳が一気に覚醒する。
数瞬とはいえ自ら彼を欲していた精神状態が信じられない。
浅ましいさっきの自分を殴り飛ばしてやりたくなった。
鋭い痛みを受けた時に唐突に一つの答えが浮かんで、得心すると同時にぐっと怒りが沸き上がる。
(―――そう、よね。)

結局、自分の思い通りにならない女が気に食わないだけじゃないの…!
痛みと、そして圧倒的な悔しさにぱたぱたと涙がこぼれていく。
「やめて………木嶋く………い…た……っあああ!」
(こいつ、他の女子相手ならもっとずっと労るんでしょ!何この嫌がらせ!痛い死ぬ…!
…最低ね。顔がよかろうがなんだろうが、こんなの恋愛対象として見ない。一生。)
木嶋から感じるのは強烈な征服欲。声と言えば掠れた悲鳴しか出ないので、心の中で罵倒する。

―――――うっさい!私は絶対あんたの思い通りになんかならないわよ!
鉄より固い決意をした所で、木嶋がぐっ、と更にねじ込んだ。

「…………………!!!!!」
あまりの衝撃に悲鳴を上げる間も無いまま、吉下は気を失った。


………………………………………………………………………

「……っは…っ!」
本能だけで先から半分程を吉下の体内に埋め込んだ瞬間、
熱く蠢く内壁にしごかれて一気に射精感がこみ上げる。慌てて引き抜く瞬間にも更に中がぎゅっと収縮し、
全てを搾り取られる感触と同時に信じられない位の快感を呼んだ。
寒気にも似た感覚が走り、木嶋も登り詰めた。

精を吐き出してほぼ萎えた己のものを吉下の太股に擦り付け、彼女の手を包み込む様に掴んで竿に添え、
上下に扱って痺れる快感と共に残滓を搾り取った。お前、それは無いだろうと
もう一人の自分がしきりに静止の声をかけるのだが、どうにも身体は言う事を聞いてくれなかった。

そして全てが終わった所で―木嶋は木嶋で、また別の自己嫌悪に陥った。

壊れない様にと丁寧に扱っていたのが逆に仇となった。一度も射精せず長時間欲望に耐えていた反動で、
最後の最後で獣の如く振る舞ってしまった。この状況、陵辱以外の何物でも無い。
しかし罪悪感の横で、彼女の処女を奪った満足感があったりするからタチが悪かった。


目を覚まさない吉下から皺だらけのシャツを脱がし、赤い痣の残る身体を持ってきていたタオルで拭く。
役員の私物入れと化しているクリアボックスを漁ると、そこから取り出した本人のジャージと体操服も使って、
外に出ても問題無い位の体裁は整えた。自分も身なりを整えて、ドアに向かい―
しっかりと閉まっているものの、内鍵はかけてなかった事に今更気付いて青ざめたりした。
カーテンを閉めておいた事は正解だったな、とひとりごちる。
備品のタオルケットを巻いて彼女をそっと横たえると、一息ついて時計を見た。

校内セキュリティのロックが作動するまであと1時間。まだ余裕がある。

完全に冷えた頭が強烈な警鐘を鳴らしていた。いつもの自分が戻ってくる。
端正な顔を苦々しげに歪めて、そもそもの原因について考えていた。

自分に全く関心の無い吉下に腹が立った。それは、自尊心を根底から崩されたのが理由だ。
だが、もしこれが吉下で無かったら、同じく腹が…まあ立つだろうが、普通仕返しで事に及ぶだろうか。

―――――しかもさっき、俺は何を望んだ?
(振り向かせるだの、次に繋げるだの)

これまでの人生において、まともに告白した経験も思い出せなければ、振られた経験も思い出せない。
この先もその栄光に傷を付けたくはなかった。だから、自分が追う立場になどなる気は無いのに。
「……」
気の迷いだ。気の迷い。
自分の本心に気付きそうになって、全力で封じ込める。

このままいけば女に困る事なく、羨望の眼差しを一心に集める学校生活が送れるはずだ。
たった一人に本気で執着したまま卒業するなど勿体無い。校内一モテる自分のプライドが許さない。
先程とはうって変わって胸が苦しい。やりきれない感情をかぶりを振って追い払う。
(それよりも、今日の痕跡の消去、吉下の途中原稿や総会準備をどうするのか、というか
明日吉下は来ないかもしれないので先に「色んな意味で」フォローを想定しておく事、あとは)

床に散らばった資料をファイルに入れ直しつつ、傍らで眠る吉下を眺めながら、
今後の対策について想いを巡らせるのであった。

すれ違い続けた最後の最後で、二人の思惑は完全に一致した。

―――――この先も、関係は、変えない。



<<作品倉庫に戻る




inserted by FC2 system