吉本&木嶋  日付:4月18日(火)  間元帥



「それじゃ吉本さん、留守番宜しくお願いね」
言い残して矢射子会長が出て行く。その後にべったりと乾君が張り付いているのは言う迄もない。
学園内の見廻りとはいうものの、実際の所はあの太蔵とかいう人にちょっかいを出しに…
もとい、出されに行ってるようなものだ。
毎度被害に合いに行くのだが、不思議と楽しそうな感じを受けるのは気のせいだろうか?
(意外に彼を気に入ってるのかしら…)
これこそ気のせいだろう。

ノートパソコンを閉じ、目頭を強く押さえる。
「はぁ…疲れるなぁ」
会長があんな風になってから確実に私の雑務は増えた。何かとゴタゴタが起きる度に収拾に走る。
馬鹿らしい事に、そのゴタゴタの大概が男女間の問題から起こっているのだ。
何気なく弄んでいたペンで、ノートに男女織り交ぜた名前を書き出す。
各々の相関関係を好意は赤、敵意は青で結んでみた。
色彩にまみれた名前の中で、自分の名だけがポツンと残ってしまった。

正直色恋沙汰は苦手だ。
当然の結果と言えるが、それが今の自分の状態に似ている事に思いあたり、知らず苦笑してしまう。

程無くして廊下から女子の歓声が聞こえてきた。
きっとあれも、疲労を生み出す要因の一端だ。





「何だ、吉本…一人か?」
耳鳴りがする程の嬌声を浴びながら、部屋に男子生徒が入ってくる。
背後から、取巻き女子の突き刺さる視線・視線・視線
「木嶋君、さっさと閉めてくれる?」
無性に苛立った…女子からの敵意もそうだが、彼の放った一言が。

『・・・一人・・・』

我ながら物凄い眼をしていただろう。正面から睨みつけた。
だが彼は全く気付くそぶりも無く、勝手に話しだしている。
「いや参ったよ、デートの予定が幾つも重なってしまって〜」
これ程無神経な人に、どうして女の子達は群れるのか
大多数の一人になるのは目に見えているのに。

思い起こせば……
かつては私も、この幼なじみに恋心を抱いていた気がする。
いつからだろうか……
名前の呼び方が変わったのは
距離を置くようになったのは
私の勝手な初恋が終わったのは






「で、どうだ吉本、たまには俺と付き合わないか?羨望の眼差しを浴びるというのも悪くないぞ?」

私の上の空な意識の代わりに、過去の記憶が口を開いた。

「…私だけを見てくれるなら、考えてもいいよ。」
心臓が急激に鼓動を速めた。頭の中が真っ白になってしまう。
(私、今、何て言った?)
信じられなかった。いくら昔を思い返していたとはいえ、とんでもない事を

しかし・・・・これはチャンスかもしれない。
止まったままの自分の気持ちをもう一度動かせるかもしれない。
彼を見上げた。

「それは無理だな」
「・・・え?」
「そんな事をしたら、他の女の子達を哀しませてしまう」

机上にペンを叩きつける。感情に容量があるなら、正に今、レッドゾーンだ。
大股で壁側まで向かい、全力の平手を見舞った。
そしてそのまま返す手で詰め襟を引き寄せ、ぶつける勢いで唇を重ねてやる。

数秒後、唇を離した。互いの息づかいを感じる。

「やっぱり貴方となんて……御免だわ」

呆けたままの彼を残して私は生徒会室を後にした。
扉を閉めた音が鼓膜に響く。きっとこの音だけは…ずっと…私から離れない。





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