共犯者たち 2006/03/18(土) 22:36:42 ID:iypxSMdD


「ぅっ…」
後ろ手に縛られた腕がぎりぎりと軋んで痛む。
それよりも、隙を見て攻撃しようとした先手を打たれて、簡単に手も足も出ないようにされたこ
とが悔しい。せっかく、また二人だけになる機会が出来たというのに。
雪人の中でもあいすは優れた能力者だと言われていたし、そのことに少なからずの自負もし
ていた。それが、どうして目の前で平然とした顔をして座っているナーガの少年には通じない
のだろう。
悔し紛れにあいすは叫んだ。
「…っ、早くこれ、ほどきなさい!」
「断る」
ここは放課後の体育倉庫。周囲には人気もない。今日もまた、太臓は英語の補習があると
かで学校に居残っている。だから当然悠も残らざるを得ない訳だが、暇なのをいいことにあ
いすを呼び出した。この間の報復を、と勇んだあいすだったが、反撃に出る前にこうして封じ
られてしまった。今のこの状態の経緯はこんなところだ。
「ほどきなさいったら!」
倉庫の中で一番奥まった、マットを積み重ねた上に座っている悠は表情ひとつ変えないまま
に、虫けらのように床に転がっているあいすを見下ろして足を組み替えた。
「まあ、そう突っかかるな。どのみち王子の補習が終わるまでは帰れないんだ」
「それはあんただけの話。私には何も関係ないわ」
「黙れ、あいす」
軽く苛立ったように片足がさっと伸ばされて、靴の先で無理やり顎を上げられた。
「…っ」
睨み上げた目と、冷たく見下げる目がぶつかる。
「そんなことは、俺が決めることだ」
短く言い放つ声が今日は一層冷たく冴えている。しばらくはここから逃れられない。そう感じ
て顔色を変えたあいすを面白そうに眺めながら、悠はマットから立ち上がった。


冷たい床の感触がひどく心地良い。
「はんっ!あんうぅう…」
何も考えられなくなって濡れた声を上げ続けるあいすの秘められた部分が、余すところなく
晒されてはしたなくたらたらと粘度のある蜜を零していた。
大して慣らされもしないうちに後ろから突き立ててくるものが、傲慢なまでに熱い脈動を繰り
返している。腰だけを高く上げされられた体勢はまるで盛りのついた動物そのもののようで、
自分がこんな風に喘いでいるなど信じられなかった。
そしてまだ腕は戒められたままだ。こんな風に完全に自由を奪われたまま淫らな真似をさ
れているなんて、話で聞く奴隷と何ら変わりない。
「あんん…ダメ、そんなにしちゃ…」
「もっと乱れろよ。そんな顔は滅多に見られないからな」
こんな時でも憎らしくなるほど静かな声とは裏腹に、腰だけが慣れきっているように巧みな
突き上げを繰り出してくる。与えられる快感に呑まれてはいけない。そう思ってはいても、
何度かそれを経験しているからこそ次に来る甘美な波を無意識に待ち受けているのだ。
「うああっ!離して、私、私っ…」
制服の中に潜り込んだ手がぎゅっと小振りな乳房を握る。それだけでも、頭の中が沸騰
しそうな性感となってどくどくと体の中を巡る血を燃え上がらせた。こんなのは自分じゃな
いと思いたかった。
「ダメなの、離して…」
「そろそろだな、あいす」
互いに限界が近いことを分かっているのだろう。悠は殊更ゆっくりと乳房を揉み、耳を甘く
噛んでじらすように動きを緩める。
「…ん、そんなの嫌、もっとして、してよおっ…」
「そうか、じゃあ」
「ひゃっ、あああんんっ…」
途端に激しくなる動きに、もう余計な思考など吹き飛んでしまった。どろどろに溜まってい
たものが、ひとつの突破口に向けて突き進んでいく。


「そろそろ行かなくてもいいの?」
腕時計の針が示す時刻は、もうすぐ補習の終了時間になろうとしていた。身支度を終えて
だるそうにマットの上に寝そべっていた少年は、その声にがばっと立ち上がると迷うことな
く出口へと向かう。
「…行くさ。王子を構うのは何よりの娯楽だからな」
「じゃあ、私も行くから」
服装にも髪型にも一糸の乱れがないことをざっと最終確認してから、後を小走りでついて行
く。どうしてそうしようと思ったのかは自分でも分からなかった。
「珍しいことだな」
「娯楽なら、楽しいことに決まっているじゃない」

「よー、あいす。やっぱ俺に会いたくなったんだな」
太臓はあいすまでが居残っていることに随分と上機嫌だ。カバンをぶんぶんと振りながら
抱き付いてこようとするのを軽くかわしてやる。
「今日はおばあちゃんが近所の寄り合いで帰りが遅いの。家に帰ってもすることがないか
ら図書室で勉強していただけ」
「またまたー、これってよく言うツンデレ?あいすのことは良く分かってるからさー」
「バカ言わないで」
別に勝手に勘違いをしているのなら、いちいち訂正する気もない。変な勘繰りをされるより
は遥かにましだ。
「それよか腹減ったな。悠、どっか食いに行こうぜ」
校門に向かっててくてくと歩いていると、急に太臓は大声を出した。さっき言ったことはす
っかり忘れているようだった。まるで子供のように側にいる悠にわがままを言う。
「この先の公園で、今日はタコヤキの屋台が出ているようです」
「お、いいね。行こっか」
「では、お供致します」
先程までのことが幻だったように、悠は相変わらず無表情な横顔を見せている。変な執
着をされるよりはいいけれど拍子抜けするほどだ。だが、そういう気性はまたあいすも似
通っている。何ひとつ縛り合わない関係は自由で心地良い。
「私も一緒に行くから」
二人の少し後ろを歩いていたあいすは、何かを吹っ切ったようにぴんと背筋を伸ばして早
足になった。
娯楽。
ただそのフレーズだけが悠とあいすの相容れない二人を繋げている。
まるで共犯者のように。








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